固有技術との融合により超微細加工の量産に成功
概要 フェムト秒レーザーとは?
レーザーは、連続的にレーザーが出る連続発振レーザーと、連続ではなくパルス状に出るパルス発振レーザーに大別されます。フェムト秒レーザーは、パルス発振レーザーに分類され、パルス幅がおよそ100fs(フェムト秒)のレーザーに位置づけられます。パルス幅が極端に短いため、極短パルスレーザー、超短パルスレーザーとも呼ばれます。材料加工に応用すれば、熱影響の無いナノメーターオーダーの超微細加工ができます。
フェムト秒レーザーの位置づけ
フェムト秒レーザー加工の特徴
フェムト秒レーザーによる微細加工は他のレーザ加工に比べて二つの特徴があります。
エネルギーを与える時間が極端に短いために、熱影響の無い加工ができる
フェムト秒レーザーはパルス幅が~100fs(1fs=10-15s)で、材料に熱が伝わるよりも速くレーザー照射が終わってしまうため、熱影響によるクラック(割れ)やデブリ(レーザーにより溶融・蒸発した物質が表面に再付着したもの)の無い加工が可能です。一方、YAGレーザーのパルス幅は~20ns(1ns=10-9s)と長いため、加工部周辺に熱影響層やクラックができてしまいます。ちなみに100fsの間にレーザーが進む距離はわずか30μm、20nsでは6mとなり、フェムト秒レーザーのパルス幅がいかに短い時間であるかが分かると思います。
(2) レーザーをレンズで集光した際に高いレーザー強度が得られるため、焦点近傍でのみ微細構造を形成できる
フェムト秒レーザーは波長が800nmで、サファイアや石英ガラスといった透明材料はレーザーの吸収が起こりませんが、焦点近傍では>10TW/cm2といった大きなレーザー強度が得られるため、焦点近傍のみ吸収が起こり微細構造を形成することができます。この特徴を生かして、ガラス内部への光導波路やマイクロ流体デバイスの形成に応用されています。透明材料を含め全ての素材(金属、半導体、ガラス、セラミックス)に対して加工ができますので、穴あけ・溝掘り・切断加工にも応用されています。また、一般にレーザーはレンズで絞ってもレーザーの波長程度までしか絞ることができませんが、レーザー強度の強い所だけを加工に利用すれば、波長以下のナノメーターオーダーの微細構造も形成が可能です。半導体パターンを形成するためのフォトマスクの欠陥部分(はみ出しやカケ)の修正にも応用されています。当社のフェムト秒レーザー加工の特徴
当社はダイヤモンドレコード針の生産において、ダイヤモンドの切断に長年レーザーを利用してきました。またサファイアやルビー、セラミックス等への細穴加工にもレーザを使っています。近年お客様からの穴径の微細化ニーズが高まる中、超精密加工を実現するため、他社に先駆けて最先端のフェムト秒レーザーを導入しました。これにより、サファイアや石英ガラスといった透明材料に対して、ナノメーターオーダーの超精密微細構造の提供が可能になりました。 フェムト秒レーザーは全ての素材に対して加工ができますが、当社が長年培ってきた「切る、削る、磨く」の固有技術が生かせる、「石英ガラス、サファイア、セラミックス」を最も得意とします。微細加工の範囲は0.5~25μmが最適で、半導体や光学製品等の産業用に加えて、近年特に研究が活発になっているバイオ研究者のお客様向けの加工実績が豊富にあります。細胞のサイズがちょうど微細加工の範囲にマッチするため、細胞膜の顕微鏡観察や細胞のトラップ、マイクロ流体デバイス等に応用されております。
微細加工技術の中でのフェムト秒レーザーの位置づけ
フェムト秒レーザーと他の微細加工技術を比べたのが下表になります。一例として、バイオ分野で頻繁に用いられる石英ガラスに対して微細穴加工をする場合について説明します。
微細加工技術 |
最小穴径 |
最大アスペクト比 |
表面粗さ |
加工変質層 |
---|---|---|---|---|
ドリル | 150μm | 4~20 |
粗い |
有り |
超音波 | 150μm |
3~4 |
粗い |
有り |
サンドブラスト | 100μm |
1~1.5 |
粗い |
有り |
25μm |
20 |
粗い |
有り |
|
フェムト秒レーザー | 0.5μm | 100 | 滑らか | 無し |
ドライエッチング | 0.01μm |
5 |
非常に滑らか |
無し |
石英ガラスは脆性材料であるため割れやすく、一般に微細穴を形成するのは難しい素材です。特に穴径25μm以下になると非常に困難になってきます。ドリル加工ではドリル自体を作製するのが難しく、最小径は150μmにとどまります。またドリルの磨耗があるため多数の穴を形成することができません。超音波やサンドブラストでもツール作製やマスク耐性が限られるため、微細な穴径の実現が難しく、また穴の表面にはマイクロクラックなどの加工変質層ができてしまいます。UVレーザーでは穴径25μmが可能ですが、熱衝撃によってしばしば石英ガラスが割れてしまいます。ドライエッチングでは非常に微細な穴を形成することができますが、フォトレジストの耐性から深い穴を形成することができず、穴長さは最大でも穴径の5倍程度にとどまります。また設計変更を頻繁に伴う試作段階ではフォトマスクの準備が必要になるため、イニシャルコストがかかってしまいます。
一方、当社は自社開発のフェムト秒レーザー加工機とコア技術である「切る、削る、磨く」とを融合させた独自のノウハウにより、他の加工技術では不可能な超微細穴の加工を実現しました。最適な穴径範囲は0.5~25μm、最大アスペクト比(=長さ/穴径)は100で非常に深い穴が可能、表面粗さは滑らかでRa~0.01μm、加工変質層が無い、というのが特徴です。加工条件出しは必要になりますが、フォトマスクのようなイニシャルコストは不要になります。一般にフェムト秒レーザ加工は非常に綺麗で微細な加工はできますが、一回の加工で素材を除去できる量が少ないため、コストが高く量産に向かないと言われてきました。当社はこの問題点を加工技術の組合せで克服しました。つまり、大きな形状の加工は機械加工で行い、微細形状が必要な部分だけフェムト秒レーザーを使うことにより、量産技術を確立したのです。
例えば、ワークが厚い場合は自社製ダイヤモンドドリルにより途中まで穴をあけ、先端の部分のみフェムト秒レーザーを使ってミクロン~ナノメーターオーダーの穴をあけるという方法を確立しています。
また、レーザーによる微細穴加工だけではなく、ワーク自体の形状加工も可能ですので、複数のメーカーに依頼する必要がありません。
さらに、平坦では無いワーク、例えば管や溝部等でも、ワーク画像を見ながら正確な位置に加工ができるというレーザーならではのメリットもあります。
特に石英ガラスやサファイアといった透明材料の微細加工については、お客様から多数のご要望をいただき、豊富な加工実績・量産実績があります。試作ではお客様と一緒に形状・レイアウト等を打合せ、図面化することから始めます。試作から量産まで微細加工でお困りのことがございましたら、当社までお気軽にお問い合わせください。
加工実績・用途例
ナノオーダーの超微細穴
石英ガラスへ加工したφ490nmの超微細穴。ドリル穴φ0.5mmとフェムト秒レーザーによる超微細穴φ490nmの組合せによる加工です。タンパク質の分析に利用されています。
ミクロンオーダーの微細穴アレー
石英ガラス板へ加工したφ2μmの微細穴。細胞膜の固定観察に利用されています。細胞膜観察ユニットとして製品化しています(下記の応用製品を参照ください)。
半球形状+貫通穴の組合せ
石英ガラス板へ加工したφ8μmの半球と, φ2μmの貫通穴。リポソームの固定化・観察に利用されています。
超多穴微細穴アレー
石英ガラスへ加工した穴径φ6μm, 穴数10201の微細穴アレー。強度を持たせるため板厚は3mmtとし、中心の微細穴部のみ0.2mmtと薄くしています。フィルタとして利用されています。
ガラス管への微細穴アレー
石英ガラス管へ加工したφ7μmの微細穴。ガラス管のような特殊形状の母材にも、正確に加工ができます。液体を流すために利用されています。
厚いガラス板への溝・ドリル・フェムト秒レーザーの複合加工
厚さ10mmの石英ガラス板への溝, ドリル穴, フェムト秒レーザー微細穴。素材が厚い場合は、機械加工とレーザー加工を組合せることで微細穴加工が可能です。高圧の液体を流すのに利用されています。
ミクロンオーダーの微細穴アレー
石英ガラス板へ加工したφ25μmの微細穴。微細な流路として利用されています。
テーパー形状の微細穴
石英ガラス板へ加工した表面φ90μm, 裏面φ10μm, 長さ0.5mmのテーパー形状の穴。テーパー角度は0°~10°まで調整可能です。微細ノズルとして利用されています。
Y字形状の微細穴
石英ガラスへ加工したY 字形状の微細穴。機械加工では困難な形状もレーザーでは加工が可能です。微細な流路として応用されています。
微細穴の表面粗さ
石英ガラスへ加工した場合、Ra0.01μmと鏡面状の非常に滑らかな面になります。
3次元形状のサファイア微細穴
サファイアへ角度60°のテーパー穴を加工した後、φ2μmの微細穴を加工。サファイアの疎水性を生かして脂質膜の固定に利用されています。
セラミックスナノ周期構造
セラミックスへ加工した微細なドットφ380nm。光学的な用途で利用されています。
石英ナノ周期構造金型
左は石英ガラスへ加工したナノ周期構造。溝幅~50nm, 深さ~5nm。右は樹脂に転写したサンプル。金型として利用されています。
応用製品(研究者のニーズから生まれました!)
細胞膜観察ユニット
石英ガラスへ加工したφ2μmの微細穴アレーを使って顕微鏡で細胞膜の固定観察を行いたい、という研究者のニーズから生まれた製品です(山形大学理学部奥野貴士准教授との共同開発によります)。ディッシュに入った細胞膜の試料を微細穴上に吸引固定することで、微量試料での定量的な分析が可能になります。下の動画は細胞膜観察ユニットを使って、蛍光顕微鏡で実際にHeLa細胞から生成した細胞膜を観察した様子になります。
<山形大学理学部 物質生命化学学科 奥野貴士准教授 ご提供>
その他バイオ研究においても様々な使い方があります。テトラヒメナの固定化観察を行った例です。
<筑波大学大学院 生命環境科学研究科 生物科学専攻 中野賢太郎准教授 ご提供>
細胞膜観察ユニットのデモ機をお貸出しできますので、当社までお気軽にお問い合わせください。微細穴形状のカスタマイズも承ります。