サファイアの工業的用途
サファイアは機械的、光学的、熱的、電気的、化学的な特性などに非常に優れ、宝飾品として利用されるだけでなく、工業的な用途でも多く使われている素材です。100年以上前に人工的に製造する技術が開発され、近年ではより品質の高いサファイアを安定的に量産できるようになり、使用される分野や用途も広がっています。
人工サファイアの製造方法
サファイアは、酸化アルミニウム(Al2O3)の結晶からなる鉱物であり、鉱物名は「コランダム」です。純粋なコランダムの結晶は無色透明ないし白色であり、微量に含まれる不純物により赤、青、黄、ピンクなどの色がつきます。特に、赤色透明なものをルビーといい、その他の色のついたものをサファイアと呼んでいます。人工的に作られたものは、無色透明なものも含めルビー色以外のものを総称してサファイアとしています。
人工的にサファイアを作る方法は、1881年にフランスの化学者のベルヌーイにより開発され、1902年に公開されました。ベルヌーイ法では、粉砕した酸化アルミニウムの粉を、2000度程度に加熱した炉内に落下させて霧状の液滴とし、冷やしながら種子結晶の上に積もらせて円筒状の結晶を成長させます。ベルヌーイは当時、3時間かけて10~15カラットの美しい結晶をつくったといわれています。
その後、サファイアの優れた機械的特性などが工業面で注目されるようになり、需要の拡大とともに、チョクラルスキー法、キロプロス法、るつぼ溶融法、EFG法など様々な人工サファイアの製造方法が開発されました。EFG法では、任意の断面形状を得ることができ、結晶の成長速度が速く、組成均質性が高い結晶が得られます。任意の面方位に結晶を製造できるので、c面、r面、a面、m面等あらゆる面方位の結晶を製造することが可能です。
サファイアの優れた特性
サファイアの優れた特性として挙げられるものの1つが、機械的強度の高さです。鉱物で最も硬いダイヤモンドに次ぐ硬さを持ち、耐摩耗性にも優れています。摩擦が小さく滑りも良いので、サファイアと、接触して擦れ合う物との双方に傷がつきにくい特性を持ちます。
次に挙げられる特性は、透明度の高さです。可視光だけでなく、紫外光から赤外光までの広領域(200nmから4000nm)において、非常に高い光透過性を示します。
更に、サファイアは非常に高い耐熱性を持っています。サファイアの融点は2040度であり、高温プロセスにも耐えることができます。高温安定性にも優れ、1800℃の高温まで安定的に使用することが可能です。熱伝導性にも優れ、石英ガラスの40倍以上の熱伝導性を示し、ステンレス並みに熱を通します。
また、化学的にも高い安定性を持ちます。耐食性が非常に高く、塩酸、硫酸、硝酸など、ほとんどの酸やアルカリに侵されません。高い耐プラズマ性も持ち、エキシマランプにより長時間UV光を照射されても、石英ガラスのように劣化することがありません。電気的特性も非常に優れています。電気絶縁性が高く、誘電率が安定しており、誘電損失が極めて低いです。
宝飾品以外にも多く用いられるサファイア
サファイアは、様々な優れた特性を活かし、多くの工業製品に用いられています。例えば、身近なところでは、透明性が高く、硬く傷がつきにくい特性を活かして、腕時計のカバーガラスや軸受けなどに多く使われています。近年ではスマートフォンのカメラの窓、指紋認証センサーカバー窓などにも多く用いられるようになりました。
高温、高圧で、薬品のかかるような過酷な環境下にも耐え、耐プラズマ性もあるので、各種試験装置の観察用窓の他、宇宙船の窓のような視認性と耐久性が求められる場所にも用いられています。低誘電損失、高絶縁性も持つので、プラズマ発生用チューブやマイクロ波導入チューブの他、高温になるハロゲンランプなどのランプ管にもサファイアは用いられています。
また、幅広い波長の光を通し、傷にも強いので、バーコード読み取り式のレジの赤外線センサーの窓部分、激しい振動を受ける車載赤外線センサーの窓などにもサファイアの板が用いられています。高熱伝導性も持つことから、プロジェクター用偏光板もサファイア製です。
耐熱性や耐食性、耐薬品性を活かした用途としては、サファイアで作られた容器やチューブがあります。サファイア製の容器ならば、危険な酸、アルカリなどが入っていても視認性を確保できます。石英ガラスでは耐えられない高温域でも透明性が保たれるので、高温の溶融物の観察も可能です。
また、電子部品やガラスの焼成に使用される焼成用セッターの棚板としても使用されています。従来のアルミナやセラミックス製セッターでは不純物、脱ガスによる雰囲気汚染問題や、反り、経年劣化などの形状変化問題がありましたが、サファイアではそれらの問題が発生しません。
更に、高強度、高耐熱であり、研磨により高い平滑性や滑り性を持たせることが可能であって、高絶縁性である特性を活かし、半導体製造工程における各種ウェハの搬送用キャリアプレート、ハンドリングアームとしてもサファイアは利用されています。耐プラズマ性、耐熱性、化学的安定性を持つサファイアは、半導体製造装置の部品には欠かすことのできない素材です。液を搬送するサファイアロッドやサファイアチューブ、チャンバー用窓、リフトピンなど、様々な物に活用されています。
他にも、青色、白色LEDなどに用いられる窒化物半導体のエピタキシャル成長に適した高温安定性、熱膨張率、化学的安定性を持つので、LED結晶成長用基板としても多く用いられています。LEDに限らず、優れた電気特性を活かし、各種の電子デバイス製造用にサファイア基板は重要な役割を持っています。
医療用機器の部品においてもサファイアは多く用いられ、内視鏡用窓材、サファイアメス、医療用プランジャーポンプ部品、ヘマトロジー検査用フィルターなど、利用分野は多岐に渡ります。
高度な加工技術が必要なサファイア
各種の工業製品に用いるには、その用途にあった形状にサファイアを形成する必要があります。EFG法による結晶成長では任意の断面形状を得ることが可能であるため、角形状、丸形状、筒形状などの各種形状を製造することが可能です。形成されたサファイアに対し、穴あけ、溝加工、研磨を行うことも可能ですが、非常に高い硬度を持つので、機械加工を行うことは難しく、高い加工技術が要求されます。
例えばサファイアの表面研磨では、ダイヤモンドに次ぐ硬度を持っているので、単にダイヤモンド砥粒を用いた研磨では、平滑な面が得られません。ダイヤモンド砥粒による機械研磨の後、化学反応でサファイア表面を軟化させながら研磨を行うCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)により仕上げられます。これにより、サファイア基板表面上の段差が原子1個分という非常に平滑な研磨面を得ることも可能です。
OrbrayではEFG法を使って育成した単結晶サファイアを使用し、大型・長尺・チューブなど様々な形状の部品を提供することが可能です。
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