Orbray株式会社(旧アダマンド並木精密宝石)ブログ。技術のトレンド、製品のワンポイント、SDGsなどについて紹介していきます。

マイクロ波のエネルギー利用 マイクロ波加熱

   最終更新日:    公開日: 2022/02

マイクロ波は、携帯電話等の無線通信の他、気象や航空機管制用のレーダー、GPSなどの測位システム、電子レンジなど、私たちの生活の様々な場所で活用されています。マイクロ波は300MHzから300GHzの非常に高い周波数を持った電波です。その電気信号を増幅するためのRFパワーアンプ(電力増幅器、増幅モジュール)は、マイクロ波を活用するのに重要な役割を担っています。

マイクロ波のエネルギー利用

マイクロ波は、電磁波の1つです。電磁波は、電界と磁界が互いに影響し合いながら空間を光と同じ速さで伝わっていく波であり、波長と周波数の2つの要素を持っています。電磁波は周波数の範囲で呼び名があり、光も電磁波の1つです。3000GHz以下の電磁波が電波に分類されます。その中でも、周波数が300MHzから300GHzの電波をマイクロ波と呼んでいます。

マイクロ波は、身近なところで広く活用され、現代の生活では欠かすことができないものです。近年では、マイクロ波無線通信など以外に、マイクロ波自身を有用なエネルギー源、エネルギー伝達の手段として利用することに注目が集まっています。

電子レンジのように、マグネトロンと言われる真空管を用いて発生させたマイクロ波により、食品等を加熱するマイクロ波のエネルギー利用は、以前から行われてきました。マイクロ波による食品の加熱は、食品に含まれる水分子などがマイクロ波のエネルギーを吸収することで起こります。電子レンジに用いられる2.45GHzマイクロ波は、電界のプラスとマイナスが入れ替わる振動を1秒間に24億5000万回繰り返しています。水分子に生じているプラスとマイナスの極は、この入れ替わる変化に追従するように変化します。これに遅れが生じる際、マイクロ波からエネルギーが吸収されて水分子が発熱します。これにより食品が加熱されるのです。

このようなマイクロ波のエネルギー利用は、現在では材料合成や化学反応などへ積極的に応用されています。また、マイクロ波を活用した、IoTデバイスやEV車への無線給電システムも開発が進んできました。更に、宇宙空間に設置した太陽光発電パネルにより作られた電気をマイクロ波に変換し、送電アンテナ(フェーズドアレイ)から地球上の受電アンテナ(レクテナ)に向けて送電する送電システムの研究も行われています。

固体化されたマイクロ波加熱の特長

マイクロ波のエネルギー利用の1つであるマイクロ波加熱は、通常の加熱方法と異なる特徴を持っています。特に固体化されたマイクロ波発生部による加熱方法はメリットが大きいので特徴を上げておきます。

内部加熱

1つめの特長は、内部加熱です。マイクロ波は、光と同じ速さで物体に届き、内部に入りながら吸収されていきます。これにより、内部から発熱が起こり加熱されていきます。従来の加熱では外からの熱エネルギーにより加熱していくので、物質の熱伝導による影響を受けながら熱が内部に進んでいきます。マイクロ波加熱は内部から加熱されていくので、熱伝導による熱の損失が少なく、短時間で加熱することができます。

温度制御が容易

2つめの特長は、温度制御の容易さです。庫内を加熱して行う炉による加熱と異なり、マイクロ波を停止すれば発熱が停止するので、加熱の開始と停止が直ちに行えます。マイクロ波の出力調整による発熱量の調整も可能です。温度制御が容易に行えます。

選択的に加熱ができる

3つめの特長は、物質によりマイクロ波の吸収が異なるので、物質を変えることで選択的に加熱できる点です。例えば、電子レンジ用の容器ではこの性質を利用して、マイクロ波を多く吸収しないことで急激に加熱されない素材を用いて作られています。選択的に加熱ができるので、必要なものだけ加熱することができます。加熱したいもの自体が発熱するので、従来の加熱のように炉全体を加熱するような必要もなく、エネルギー効率が良いです。

環境負荷が少ない

4つめの特長は、環境負荷の少ない点です。マイクロ波は、電界と磁界が互いに影響し合いながら空間を伝搬するので、伝搬のための媒質が不要です。真空中でも伝搬します。加熱の際に周囲の空気をほとんど加熱することなく、対象物のみを加熱することができるので、周囲に与える負荷を小さくできます。マイクロ波を発生させるための電気エネルギーのみで加熱できるので、火や電熱線を使う炉による加熱とは異なり、周辺環境が高温になることもありません。また、従来の加熱方式に比べ省エネルギー化が期待できます。

超小型GaNマイクロ波パワーアンプの可能性

マイクロ波の活用において欠かせないものが、マイクロ波の信号を増幅するためのパワーアンプです。特に、マイクロ波を活用する装置の小型化や高効率化においては、GaN(窒化ガリウム)半導体デバイスを使用したパワーアンプに注目が集まっています。

マイクロ波の発生源としては、現在でも電子レンジなどではマグネトロン等の真空管が使われています。マグネトロンは大型であり、寿命が短く、加熱箇所にムラができるなどの欠点がありました。近年、マグネトロンに代わり、GaN半導体デバイスによるパワーアンプを用いて加熱を行う、次世代型のマイクロ波加熱装置の開発、製品化が進んでいます。GaN半導体によるマイクロ波パワーアンプは、GaAs(ガリウムひ素)半導体を使用したパワーアンプに比べて高出力が得られるとともに、装置の小型化が可能です。

例えば、電子レンジをはじめとするマイクロ波加熱装置では、国際規格に合わせて2.45GHzマイクロ波が広く用いられています(電波を利用する工業・科学及び医用分野での使用を目的に製造されたISM機器は、利用できる周波数帯が国際規格CISPR11でISM基本周波数として規定されています)。

2.45GHzマイクロ波パワーアンプをより小型化することができれば、マイクロ波加熱装置自体のサイズも小型化することが可能です。現在では指先ほどの大きさでありながら、25W以上のパワーを持つ、超小型のパワーアンプも開発されています。このような超小型パワーアンプを用いれば、災害時の非常用や登山などの携帯用として、超小型携帯電子レンジの開発も可能です。他にも、印刷関係に使われるインクや食品の乾燥品など直ちに乾燥させる小型乾燥装置や、患部を内部から焼く超小型の医療機器、ガラス容器内の試薬を局所的に加熱する小型試験装置など、様々な乾燥、加熱用途への利用も考えられます。医療機器・産業機器、民生機器向けに様々な応用、活用が期待されています。


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