Orbray株式会社(旧アダマンド並木精密宝石)ブログ。技術のトレンド、製品のワンポイント、SDGsなどについて紹介していきます。

パワー半導体とは|半導体の基礎から材料ごとの応用分野まで紹介

   最終更新日:    公開日: 2023/12

パワー半導体とは大電力制御を行うための半導体デバイスを指します。近年、高品質なパワー半導体材料の大量生産が可能となったことで、EV、スマートグリッド、再生可能エネルギーなど、様々な分野でパワー半導体の活用が始まりました。

ここでは、そもそもパワー半導体とは何か、また、材料ごとにどのような特色を持ち、どのような分野に応用されているのかを解説します。

半導体の特性

半導体は私たちの身の回りの様々な電子機器に用いられます。

例えば、太陽光発電パネルの主な材料は半導体ですが、ここでは光が当たると電子が移動する、という半導体の性質が用いられています。ディスプレイや照明に用いられるLEDは太陽光パネルの逆で、電流を光に変換するデバイスです。

電流制御

半導体の持つ重要な特性の1つが「電流制御」です。電流制御とはある特定の電気の流れを止めたり、止めなかったりすることを指します。コンピュータ、家電、照明のスイッチなど、電流制御は様々な用途に用いられてきました。

例えば、ダイオードと呼ばれる半導体デバイスは特定の方向のみに電流を流します。逆方向には流しません。トランジスタと呼ばれる半導体デバイスは電流のON/OFFを制御する門のような役割のデバイスです。

これらスイッチングデバイスを組み合わせることでコンピュータ内部の論理回路が構成されています。

AD変換

電線を伝って送電される電力は交流です。これは送電に係る電力損失を抑えるためですが、一般家庭の電化製品は直流で動作するため、電気を使用するためには交流から直流に変換しなければなりません。

ダイオードはこのような「交流 → 直流」の変換(AD変換)にも用いられます。

交流電流がダイオードを通過すると波形が切り取られ、上半分だけになります。その後、別のデバイスで波形をならせば直流電流の完成です。実際のAD変換では切り取られた下半分がもったいないので、色々と工夫してこちらも活用します。

このAD変換において、信号の周波数(1秒間に電流の向きが入れ替わる回数)が速くなってくるとデバイスが周波数についていけません。結果として歪な信号波形になってしまい、直流に変換する際の電力損失が大きくなります。

半導体が世に出始める前は半導体以外のデバイスでAD変換を行っていたわけですが、当時のAD変換は電力損失が大きく、非効率なものでした。

半導体はスイッチングのスピードが速いため、AD変換における電力損失を小さく抑えることができます。

パワー半導体とは

一般家庭用電化製品のためのAD変換であれば、シリコン半導体で作られたAD変換器で特段問題はありません。しかし、EVや新幹線を動かすとなれば話は別です。

半導体デバイスにはそこに加えられる最大電圧が決まっており、その電圧を超えると絶縁破壊が起きて破損してしまいます。この問題を解決するために開発されたのがパワー半導体です。

大きな電圧を印加しても絶縁破壊せず、優れたスイッチングができるデバイスをパワー半導体と呼びます。

パワー半導体は半導体デバイス内の1つの領域を指す言葉です。パワー半導体以外の通常の半導体とパワー半導体の違いは、その「用途」にあります。

単体のシリコンでも、デバイスサイズを大きくしていけば十分な絶縁破壊耐性が得られます。しかし、巨大なシリコンパワーデバイスが用いられないのは、それなりの理由があるためです。

パワー半導体に求められる特性

改めてパワー半導体に求められる性能を以下にまとめます。

・絶縁破壊電界強度が大きい
・優れたスイッチングスピードを持つ(電力損失が少ない)
・安価で生産性に優れる
・耐熱性に優れる

先に、単体のシリコンであってもパワー半導体になり得ると書きましたが、実際に大きなシリコンパワーデバイスを作ると大きな空間を占有するために使い勝手が悪くなりますし、スイッチングのスピードも低下します。結果として、壊れにくさと電力損失の少なさを両立するためには材料面の改善が欠かせません。

では、絶縁破壊耐圧やスイッチングスピードはどうすれば高められるのでしょうか。

絶縁破壊電界強度とバンドキャップ

絶縁破壊耐圧を上げるための開発指針の1つは、バンドギャップを大きくすることです。

バンドギャップとは電子が存在できない領域を指します。バンドギャップが大きくなればなるほど、絶縁破壊が起きにくくなります。

難しい内容のため、バンドギャップをダムにあてはめて考えてみましょう。

ダムは上流の貯水池と下流の間に設置され、水を堰き止めています。価電子帯という貯水池には、電子という水が入っています。バンドギャップというダムの先には電導という下流があり、そこでは電子が自由に流れています。通常はこのダムがあるため、貯水池の水が下流に流れ込むことはありません。

しかし、上流の水圧が強くなり、その力にダムが耐えられなくなると、ダムは決壊します。そうすると水は下流へ勢いよく流れていきます。水は自由に動けるようになります。

このように高い電圧(=水圧)をかけることで、バンドギャップを越えて(=ダムが破壊されて)電気が通るようになることを「絶縁破壊」と呼びます。

バンドギャップは理論式からその値を計算できます。半導体を構成する原子同士の距離が短いほどバンドギャップが大きくなり、絶縁破壊耐圧は上がります。

スイッチングスピードと移動度

半導体のスイッチングスピードは、半導体内で電子がどれだけ速く動けるか、即ち、移動度と関連します。

移動度も物質の結晶構造から理論値が計算できますが、不純物や格子欠陥の密度、半導体表面の状態などによって変化し、理論通りの値は得られません。高い移動度を持つデバイスを作製するためには、材料の選択のみならず、質の高い結晶の作製や他の材料との組み合わせも重要です。

パワー半導体材料の特色と応用分野

パワー半導体デバイスに適した材料、つまり、大きなバンドギャップと高い移動度を両立する材料としては、SiC、GaN、ダイヤモンドなどが挙げられます。

シリコンSiCGaNダイヤモンド
バンドキャップ13.33.45.5
絶縁破壊電界強度19.38.333
参考 各種半導体材料の比較表(シリコンを1とした場合の相対値)

SiCは既に実用段階に入りました。比較的早くから多くの機関が研究に着手したため、次々と量産体制が構築されています。

例えば、EV最大手テスラはSiCを自社EVに搭載し、充電に伴う電力制御をSiCに置き換えました。これに続くように、SiCデバイス製造大手各社はEVメーカーと連携を強めています。

GaNパワーデバイスはSiCに比べて材料コストが割高ですが、性能面、特に移動度に関してはSiCデバイスの2倍近い値が得られています。

ダイヤモンド半導体はパワー半導体としての利用はまだ研究段階なものの、耐圧・スイッチング特性ともに優れ、高温化や放射線環境下の動作も安定しているため、理想のパワー半導体デバイスとして注目されています。

そのため、将来的には通信衛星などへの応用が検討されています。

ダイヤモンド半導体の未来

本記事では半導体及びパワー半導体の特性を紹介しました。ダイヤモンド半導体は、研究段階であるものの、他の材料と比較した際の性能の高さからEV、パワーコンディショナーはもとより、次世代通信、医療、原子力、宇宙、ロボティクスなどあらゆる分野で注目が集まっています。

ダイヤモンド半導体ではダイヤモンド半導体についてより詳しく解説します。

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