マルチコア光ファイバ接続に向けた取り組み
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はじめに
近年の情報通信技術の発展によって、 IoT(Internet of Things)やICT(Information and Communication Technology) の需要は増加し続けている。また、新型コロナウイルスによる人々の生活様式の変化によって動画配信サービス需要の拡大は著しい。その他様々なユースケースでデジタルデータが生成・流通・蓄積されており、それにともない通信トラフィックは急速に増加している。増え続ける通信トラフィックに対して、既存の情報通信システムでは伝送能力と処理能力の双方で限界を迎えることが予想されている1)。この問題に対して有効な手段のひとつがマルチコア光ファイバ(MCF:Multi-core fiber)である。しかし、MCFは一般的なシングルコア光ファイバと比較してアライメント面での課題が残る。ここでは、OrbrayのMCF実装に向けた取り組みについて紹介する。
マルチコア光ファイバについて
マルチコア光ファイバ
MCFとは、1本の光ファイバ中に複数のコアをもつ光ファイバの総称である。コアごとに異なる情報を送ることができるため、1本の光ファイバで大容量の情報通信が可能になる。このような複数伝送路の情報を束ねて伝達をする方法を空間分割多重方式(SDM:Space Division Multiplexing)と呼び2)、次世代の長距離・短距離通信で通信の大容量化の課題に対する解決手段の一つとして開発が進められている。 MCFは、SDMを利用した光インターコネクトに有用な方式として期待されている。
マルチコア光ファイバの光接続の課題
一般的な光ファイバはコアが1つであり、そのコア位置は光ファイバの外径の中心に位置する。コアが1つの光ファイバ同士を接続する場合、両側の光ファイバの外径を基準にアライメントすることでコアの高精度な位置合わせが可能である。一方で、複数のコアを持つMCFのコア位置は外径中心からオフセットした位置に存在する。そのため、MCF同士を接続する場合、双方の外径を基準に合わせるだけではコア位置の光軸に対する回転軸方向のアライメントをとることができない。この点がMCF間接続のボトルネックとなっており、接続が高難度化している原因である。MCF接続において、アライメントコストは高くなることが予想されており、高精度な位置合わせを高効率に行うための技術開発が課題となっている。
シングルモードファイバとマルチコア光ファイバの光接続(Fan-in/Fan-outデバイス)
MCFを実装するためには、MCF同士の接続だけでなく、MCFとシングルモードファイバ(SMF:Single-mode fiber)の接続を考える必要がある。MCFに対して、光源および受光素子から直接光供給や受光を行うことができないため、MCFの各コアへ、それぞれSMFを接続しなければならない。これを実施するためのデバイスに、Fan-in/Fan-outデバイス(FIFO)がある。FIFOはSMFとMCFを接続したデバイスであり、MCFのコア間ピッチにしたがってSMFを配置する。一般的なSMFの外形は125 µmであるため、コア間ピッチが数十µmのMCFに対して各コアをアライメントしようとする場合、外径が接触してアライメントをとれない。そのため、FIFOに使用されるSMFは、ファイバエッチングによって外径を細径化したものが使用される。細径化したSMFをMCFのコア間ピッチに合うように配置することがFIFOの精度において重要なパラメータの1つである。
Fan-in/Fan-out用バンドル光ファイバ
Orbrayでは40年以上にわたる生産で培ったジルコニアセラミックフェルールの製造技術と、レンズドファイバに代表される光ファイバ加工技術を適用したFIFO用バンドル光ファイバを提供している(図1)。
MCFのコア間ピッチに合うように細径化した複数本のSMFと、それらを高精度に配置する為に最適化した内径と同心度の精度が高いカスタムフェルールの適用により、隣接及び対向するコア間ピッチを理想値から±0.5umの位置精度でバンドル化している。終端形状としては、直接接合用のSC型、LC型コネクタと、空間結合用の金属フェルールに対応している。
自己形成光導波路
自己形成光導波路とは
自己形成光導波路(LISW-WG:Light-induced self-written optical waveguide)は、光硬化性樹脂を使用した光導波路間の接続技術である。光硬化性樹脂中に光ファイバから光を出射させて、ビームの伝搬方向に硬化した樹脂が光導波路を作製する。図2に示すプロセスで光ファイバ間のLISW-WGのコア接続を行う。
(1)対向する光ファイバを光硬化性樹脂中に置き、両方の光ファイバから樹脂を硬化させることができる波長の光を照射する。
(2)照射した光によって、樹脂は光ファイバのコアから順に成長していく。
(3)成長した樹脂は、対向する光ファイバの出射光が重なるところで接続する。
(4)光の照射を停止することで、重合反応が終了してLISW-WGのコアが得られる。
上記のプロセスは光はんだ現象とも呼ばれ、光導波路間の接続を可能にする3)。LISW-WGは、MCF間接続、融着接続が難しい光接続条件下、およびシリコン光導波路と光ファイバの接続などにおいて高効率な光接続が期待できる。
アライメント公差の緩和と多チャネル一括接続
LISW-WG技術を使用したMCF間の接続では、アライメント公差の緩和と多チャンネル一括接続の2つのメリットがある。まず、アライメント公差の緩和について説明する。図2でLISW-WGのコアの接続プロセスについて述べたが、ここで注目するのは(2)と(3)の工程である。(2)と(3)の工程は、LISW-WGのコアの成長は光ファイバの端面から始まり、対向するコアは双方が出射しているビームが重なる部分で接続することを示している。対向する光ファイバから出射されている光が重なり合えば、光ファイバに位置ずれが発生していても対向して成長するLISW-WGがお互いを結んで接続される。このようなセルフアライメント接続プロセスをとるため、対向する光ファイバ間のアライメント公差の緩和が期待できる。
次に、多チャンネル一括接続について説明する。LISW-WG接続は、MCFの各コアに照射が可能な光学系を組むことで、コア数に関係なくMCF同士を一括接続することができる。MCFをメカニカルにアライメントする場合、MCFのコア数が増えるほど、アライメントの難度が高くなる。一方で、LISW-WG接続はコア数によらずアライメントの難度は変わらない。したがって、LISW-WG接続はMCFのコア数増加によるアライメント高難度化を解決する有効な手段である。
4コアマルチコア光ファイバ間の一括接続
LISW-WGによる4コアMCF間接続結果について述べる。接続実験に使用する4コアMCFのコアピッチは50 µmで4つのコアはスクエア状に配列されている。このMCFを2本用意し、V溝基板上に100 µmの空間を空けて対向配置させ、その後MCF間を光硬化樹脂で充填した。実験に使用する光硬化性樹脂は近赤外光の波長帯による硬化が可能である4)。LISW-WGのコア作製には波長1310 nmのレーザダイオード(LD)光源を使用した。MCFは対向側の他端がFIFOで端末処理されており、LD光源を光カプラで分岐して、4コアMCFのそれぞれのチャネルと接続した。自己形成光導波路のコア作製系の模式図を図3に示す。2台のLD光源から光を同時に照射することで、4コアMCFの一括接続を実施する。光出力はチャネルごとに400 µWの光強度で10s照射した。LISW-WGのコア作製時の写真を図4に示す。波長1310nm光によって得られたコアはストレートな形状をしていることが確認された。コア作製時の時間は、10sであり、短時間での4コア一括接続を達成した。LISW-WGのコアを作製したのちに、その周囲の樹脂を硬化させることによってクラッドを作製した。
自己形成光導波路の挿入損失測定
MCF同士を近づけて光軸に対して回転軸方向の位置合わせをした状態(バットジョイント)とLISW-WG接続後の挿入損失(IL:Insertion loss)を波長1550 nm光で測定した。IL測定は、MCF各チャンネルで行った。結果を図5に示す。MCFをバットジョイントさせたとき、ILの平均は0.8 dBであった。ここでの損失は、MCF間のミスアライメントに由来する。一方でLISW接続を行うと、ILは平均0.2 dBであった。バットジョイントと、LISW-WG接続のILを比較するとLISW接続の方が低損失だった。続いて、チャネルごとのILのバラツキについて比較する。バットジョイントでは最大損失と最小損失の差が0.4dBであったが、LISW-WG接続後の最大損失と最小損失の差は0.1 dBであり、バラツキの改善が確認された。損失の低下とバラツキの改善はバットジョイント時に発生していたミスアライメントに起因する損失をLISW-WGによってMCF間をセルフアライメントして接続することで改善したことを意味する。この結果からLISW-WG接続は、MCF同士やバンドル光ファイバとの光接続に対してのアライメントの高難度化の課題を解決する手段の1つになることが明らかとなった。
おわりに
OrbrayのMCF実装に向けた取り組みとしてFIFO接続用バンドル光ファイバと自己形成光導波路について紹介した。バンドルファイバは、ジルコニアセラミックフェルール製造技術と光ファイバの細径加工技術を駆使し、理想値から±0.5µmの精度で作製が可能である。種々のカスタムフェルールの選択によって、さまざまなコア間ピッチのMCFへ対応が可能である。自己形成光導波路は、近赤外光で硬化する光硬化性樹脂を使用して、平均0.2dBのILで4コアMCF間の一括接続を達成した。接続前後のIL差からアライメント緩和効果があることを確認した。
Orbrayでは、これらの技術に加えてMCF接続用のSC型、LC型光コネクタの開発を進めている。シングルコア光ファイバ用の接続様式がそのまま使用可能で、従来品と同等の取り扱いができる光コネクタ開発を目指している。 今後、より需要が期待されるMCF光通信分野において、Orbrayはその接続技術に着目し、顧客のニーズにあった製品開発を進めていく。
謝辞:本誌記載の自己形成光導波路に関する研究成果は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))のBeyond 5G研究開発促進事業 委託研究(03301)により得られたものです。
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【参考文献】
- 情報通信白書令和4年度版, 総務省
- Y. Awaji, “Review of Space-Division Multiplexing Technologies in Optical Communications,” IEICE Trans. Commun., vol. E102-B, no. 1, pp. 1-16, 2019.
- T. Yamashita, M. Kagami, H. Ito, “Waveguide shape control and loss properties of light-induced self-written (LISW) optical waveguides,” J. Light. Technol., vol. 20, no. 8, pp. 1556–1562, 2002.
- H. Terasawa, O. Sugihara, “Near-Infrared Self-Written Optical Waveguides for Fiber-to-Chip Self-Coupling,” J. Light. Technol., vol. 39, no. 23, pp. 7472–7478, 2021.
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