未来を切り拓く、究極の半導体素材 ―ダイヤモンドの新たな輝き―

Orbray Future ColumnVol.11

Orbray株式会社 ダイヤモンド事業統括本部

アダマンド並木精密宝石株式会社は、
2023年1月1日から社名をOrbray株式会社に変更しました。

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Orbrayはダイヤモンドも事業のひとつにしています。

とはいえ、あのきらめく宝石のダイヤモンドではありません。工業用の人工ダイヤモンドです。その硬さは研磨や切断といったOrbrayが得意とする加工技術に欠かせない素材です。

工業用から半導体へ ―新たな挑戦の始まり―

今、私たちが研究に取り組んでいるのは、加工に使われるダイヤモンドでもありません。


それは半導体向けの単結晶ダイヤモンドの育成です。実は、ダイヤモンドは究極の半導体材料と言われているのです。ダイヤモンドの熱伝導性、電界をかけた時の壊れにくさなどが、現在の半導体素材の主流であるシリコンや次世代の素材といわれる炭化ケイ素、窒化ガリウムなどよりはるかに優れているため、平らで大きな板状のダイヤモンドを作り、それを基板にして半導体を作ろうと世界の会社が競い合っています。

革新をもたらす、驚異の性能

ダイヤモンドは電気を通しません。

半導体は電気を通す必要があるのですが、ダイヤモンドの炭素の一部が不純物に置き換わると、電気を通すようになります。でも、どれくらいの不純物を入れたらよいかのさじ加減が難しいのです。私たちは、不純物をどのようにコントロールすればダイヤモンドが素晴らしい半導体材料になるのかを研究しています。

従来の半導体は電気を通すと熱くなるため熱で壊れないように冷却する機構が必要となります。しかし、ダイヤモンドは熱伝導率が非常に高く熱を逃がしやすい性質があります。また、従来の半導体は大量の電気を流すと壊れるため、たくさんの半導体に分散して壊れないようにしていますが、ダイヤモンド半導体なら少ない数ですむので小さなスペースに納められます。

その上、従来の半導体は宇宙に飛び交う放射線の影響を受けやすいため人工衛星などにはいまだに真空管が使われていますが、ダイヤモンド半導体は放射線の影響を受けにくいため宇宙で使われる機材にも使えます。また、原子力発電所の廃炉作業で高い放射線量にさらされる機器にも使えると期待されているのです。

量子時代を見据えて

ダイヤモンド半導体が待望されているもう1つの重要な分野は量子コンピューターです。今のコンピューターよりも桁違いに高性能なコンピューターの実用化のための大きなハードルをダイヤモンドの利用によって乗り越えようという研究が進んでいます。

しかし、ダイヤモンドの半導体がまだ実用化されていないのは、半導体を作るのに適した大きな人工ダイヤモンドを作るのが難しいからです。

独自技術で世界に挑む

Orbayは、2016年2月に湯沢工場ダイヤモンドの結晶開発部門を創設して以来、さまざまな大学や研究機関と協力しながら研究を推進しています。

人工ダイヤモンドは、一般的に高温の炉の中でダイヤモンドの土台の上にメタンガスと水素ガスを流してゆっくりと成長させます。しかし、土台が小さなダイヤモンドでは大きなダイヤモンドは作れません。

そこで私たちはサファイアを土台にしてみました。しかし、ダイヤモンドとサファイアの熱膨張率が違うためダイヤモンドが割れてしまいました。そこで、サファイアの基板上に生け花に使う剣山のようにダイヤモンドを極細の針に加工したものを無数に立て、その尖った針の上にダイヤモンドを成長させる方法を思いつきました。この方法により、直径1インチのダイヤモンドの板を育成することができました。2014年9月には、この「マイクロニードル法」と名付けたダイヤモンド製造技術について特許を出願しました。

●マイクロニードル法

さらにこの工程の複雑さと高コストの克服に務め、2021年には「ステップフロー成長法」を開発しました。これは、サファイア基板を傾斜させて結晶成長を行うことでダイヤモンド薄膜にかかる力を低減し、欠陥の少ないダイヤモンド基板を作製する方法です。この方法によって年々直径を拡大し、2インチ(5センチ)まで広げることに成功し、これまでより高品質で低コストなダイヤモンド基板の量産技術を開発しました。

●ステップフロー成長法

匠の技が活きる、精密加工

ダイヤモンドの育成事業にも長年の宝石加工事業によってOrbrayが獲得した原子レベルのダイヤモンドの特性についての知見が生かされています。ダイヤモンドの基板上にデバイスを作成するには、表面を研磨する必要があります。しかし、従来のダイヤモンド研磨方法ではダイヤモンド基板には対応できないため当社独自の研磨工法を開発しました。ダイヤモンドを知り尽くした私たちだからこそ生まれた工法です。

こうした開発の斬新性、将来性などが認められ、Orbrayは2022年、電子デバイス産業新聞が選ぶ半導体・オブ・ザ・イヤーで「2インチダイヤモンドウェハーの量産技術開発」というテーマで半導体用電子材料部門のグランプリを受賞するなどダイヤモンドの育成で世界トップクラスと評価されています。

未来を創る、新たな協創

2023年6月には、トヨタとデンソーが出資する車載半導体研究のミライズテクノロジーズと、電力損失が少ない上、小型化が可能なダイヤモンド製パワー半導体の共同研究を開始しました。パワー半導体は電気自動車(EV)に欠かせない半導体で、実用化は2033年ごろを目指しています。

2024年6月には、先端材料の世界的リーダーであるエレメントシックスと戦略的提携を結び、現在10mm未満でしか製造できない高い品質レベルの大口径単結晶ダイヤモンド基板の提供を目指しています。

私たちは、これからもダイヤモンドの育成で最先端を走り続け、今の半導体にはできないことを可能にして、科学の発展に貢献したいと思っています。

企業情報

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