SDGsの取り組み~障がい者と共にスポーツを楽しむ
代表取締役社長 並木里也子
カラフルな突起(ホールド)がある壁をよじ登るクライミング。先の東京オリンピックの種目にもなり、日本人も大活躍しました。指先とつま先で全体重を支えながら小さな突起をたどって垂直な壁をグイグイ登る姿に驚いた人も多かったと思います。
私もアメリカに住んでいた時、このスポーツにトライしたことがありました。でも、障がい者クラスがあることは、車椅子ユーザーの友人、畠山直久さんに誘われてパラクライミング交流会に参加するまで知りませんでした。
この交流会を開催している視覚障がいクライミングの第一人者でNPO法人モンキーマジックの小林代表によると、同社団がサポートするパラクライミングは初めは視覚障がいだけでしたが、少しずつ範囲を広げ、聴覚障がい、手足の欠損や麻痺がある人、車椅子ユーザー、発達障がいなどの人も加わりました。年齢的にも小さな子供から70代まで幅広い層が参加しています。
「クライミングは誰もが同じ場所、同じルールで楽しむことができるスポーツです。視覚障がい者もちょっとした手助けさえあれば楽めるんですよ」と、小林代表。
確かに視覚障がい者は、どこにホールドがあるかが見えないだけでなく、色も分かりません。ホールドがあのようにカラフルなのはレベルによって使っていいホールドを色分けしているからなのですが、視覚障がい者にはそれが見えないのです。そのため、サイトガイドがマンツーマンで付き、声でそれを教えてあげる必要があります。モンキーマジック協会では、その手助けを「H(方向)K(距離)K(形)」という言葉で表しています。そのため会場には「11時、遠め、バナナ!」と、熱のこもった声が飛び交い、活気に満ちていて、クライマーの方たちがとても生き生きとした表情をしていたのが印象的でした。
サイトガイドは、ホールドがどの方向のどのぐらい離れたところにあり、どんな形をしているかを伝えます。でも、それ以上の指示は出しません。どちらの手でつかむのか、どちらの足で乗るかはクライマーが考えます。クライマーは自分で考え想像して手足を動かします。そうでないと、クライマーが操り人形になってしまうからです。
サイトガイドは、クライマーが不安にならないように、とにかく指示を出し続けます。やってみるとこの指示の出し方が意外と難しい。クライマーとサポーターの信頼関係が重要だと感じました。
パラクライミング歴10年の女性の視覚障がいクライマーは、「身体と頭を両方使うこと。身体だけではできないことを両方を使うことで、できるようになるのが魅力です」と話してくれました。また、始めて1年半の車椅子クライマー平井亮太さんは、「昨日できなかったことができるようになる達成感を感じます。進行性の難病を抱えていますが、日々挑戦し続けています」と力強く語りました。彼はトレーニングジムで働きたいと思っているそうです。また、車椅子ユーザーが使いやすい施設がもっと増えてほしいとも話していました。そういわれてみると、障がい者の使いやすさを考えたスポーツ施設がどれだけあるのでしょうか。運動不足になりがちな障がい者にもっと気軽にスポーツを楽しんでもらいたいと思いました。
この交流会に誘ってくださったパラクライミング日本代表の畠山さんは、時計修理を行う車椅子エンジニアです。彼とは以前からの知り合いで、会うたびに彼がどんなチャレンジをしたかの話で盛り上がります。車椅子で都内の急坂を制覇したなどというのは序の口で、車椅子に乗ったまま公園の鉄棒で前回りをした話をお聞きした時は、その不屈の精神に驚きました。
モンキーマジックの小林さんは、網膜色素変性症という病気で大人になってから視力を失いました。次第に目が悪くなる中、次は何が出来なくなるかばかりを考えていました。。しかし、ケースワーカーから「次に何ができなくなるかと言われても、私たちには何もできることはありません。もっと大事なことがあるでしょう。あなたが何をしたいのか、どうやって生きていきたいのか。それが分かれば、私たちも周りの人も、社会の仕組みも、あなたを支えられるはずです」と言われ、前向きに生きようと思い、何ができるかを考えるようになったと話しておられました。モンキーマジックのホームページには「見えない壁だって、越えられる」と書いてあります。
畠山さんは、「健常者には100の選択肢があるので、私自身、あれこれ迷っていました。でも障害者になって、それが10になると、迷う余地がほとんどない。自分の人生なので、他責化せずに、自分で選択して、自分がその選択に責任を持つ。失ってしまったものを取り戻したいのは確かですが、場合によっては潔く諦めたほうがいい。」と話しておられました。
小林さんは以前、インタビューで「みんな、できることがちょっとずつあって、できにくいこともちょっとずつあるんですよね。私は身長が157㎝しかないから、背の高い人なら届くホールドに届かないことがあります。力のある人もいれば、ない人もいます。そうやって考えてみると、何がいったい『障がい』なのかなって思いませんか?」とおっしゃっていました。
なんと前向きで柔軟な考え方でしょうか。私は以前から⼈の⾒かけや能⼒、障害の有無を気にしたことはありません。むしろ、健常者の⾃分が気付けないことを教えてもらっていると思い感謝しています。
翻って社内に目を転じると、社員にもそれぞれに得意不得意があります。それを認め合い、お互いに協力し合いながら、支え合っていくことが大切だと、この交流会で健常者のサポートで壁を登る障がい者の姿を見ながら思いました。
実は、私は高所恐怖症でスキー場のリフトやゴンドラが苦手なのですが、この日は怖いとは思わず登り切れた事に驚きました!皆さんの頑張りに勇気づけられたのだと思います。
次回は私も目隠しをしてクライミングにチャレンジしてみたいと思います。
生きるを伝える : テレビ東京 (tv-tokyo.co.jp)
小林代表
「もともと健常者の時に、何をやっても勝つことはなかった。
他人と比べることなく楽しみを追求して、自分自身にチャレンジしていく。
クライミングと出会い、伝えていく事でやっと自分の居場所を見つけたと感じた。
全国を飛び回っているが、多様性のあるコミュニティ作りをする事で、他社を受け入れ、視野を広げ、成熟した社会を創っていきたい。」
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