EVに使用されるパワー半導体の概要と役割|半導体製造の工程なども徹底解説
電気自動車(EV)の開発は、石油燃料の燃焼(二酸化炭素の過剰排出)による地球温暖化を防止するための対策の1つとして、世界中で行われています。しかし、EVの燃費・性能向上にパワー半導体が使用されていることをご存じでしょうか。
そこで本記事では、EVに使用されるパワー半導体の概要や役割、次世代パワー半導体がもたらす変化などについて詳しく解説します。
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EVに使用されるパワー半導体の概要と役割とは?
EV開発では、走行距離の延長や車体軽量化の実現などの性能向上の点でパワー半導体が期待されています。そこで、EVにおけるパワー半導体の概要と役割について詳しく解説します。
EVの基本要素
EVの駆動系は、主にバッテリーや制御装置、モーターによって構成されています。バッテリーが作り出す直流電流が制御装置によって交流電流に変換され、モーターが回転する仕組みになっています。
具体的な仕組みは、以下の通りです。
- バッテリーが直流電流を生み出す
- バッテリーで生み出された電気が制御装置によって交流電流に変換される
- 交流モーターが制御装置から発生する交流電流で回転し、モーターの回転がEVの駆動力となる
制御装置は、インバーター(直流を交流に変換する電気回路)とコンバータ(電圧の高さを変換する電気回路)から構成されています。制御装置に用いられている電気回路は大電流・高電圧で動くため、調整するためにパワー半導体が必要なのです。
パワー半導体とは?
パワー半導体とは、電力の変換や制御を行うためのデバイスです。一般的な半導体では、電力損失が発生すると発熱して高温となるため、故障が起きやすいです。
しかし、パワー半導体では電力損失の低減や放熱性の向上などの工夫が施されている点が異なります。そのため、通常の半導体よりも大電流・高電圧を扱えるのです。
EVに使用されるパワー半導体の役割
パワー半導体は、インバーターで使用されています。具体的には、電力源であるバッテリーから出力される直流電流を交流電流に変換し、駆動力を生み出すモーターに供給する役割を果たしています。直流から交流へ変換するタイミングで周波数や電圧を制御してモーターを稼働させるため、運転者の操作に合った加速・減速を行えるようになるのです。
半導体製造には前工程と後工程がある
半導体を製造する際のプロセスには、大きく分けて前工程と後工程があります。それぞれの工程では作業内容が大きく異なるため、前工程と後工程について詳しく解説します。
前工程
前工程では、半導体ウェハーの前処理としてシリコンウェハー(シリコン単結晶でできた薄い板)の表面上に電子回路を形成します。前工程でシリコンウェハー上に一層の回路を形成する際には、以下の工程を繰り返し行います。
- 成膜:ウェハーの表面にさまざまな材料の薄膜をつける
- パターン転写:薄膜上に感光材を塗布して回路パターンを転写する
- エッチング:現像したフォトレジストのパターンに沿って酸化膜と薄膜を削り取り、エッチングで薄膜を配線等の形状に加工する
最下層にトランジスタを形成して、その上に何層も配線回路層を重ねることで半導体が完成します。また、半導体で形成する層は以下の通りです。
- 素子分離領域:トランジスタが隣接した素子の干渉を受けずに動作するように設置する領域
- ウェル:トランジスタ領域を形成する際に少量の不純物を注入する領域
- トランジスタ:電子回路のスイッチング作用を持った半導体素子
- 電極:チップ内部と外部の接続を行うために金属を埋め込んだ電気の通り道
- 配線層:電極と電極を配線する層を積み重ねた回路
領域や層は成膜やパターン転写、エッチングなどを基本とした加工を繰り返して形成します。ウェハーに半導体を形成した後は、チップそれぞれに問題がないか検査します。
後工程
後工程は、ウェハーから半導体チップを切り出して所定の枠に固定・封入する組立工程です。具体的には、以下のような流れになります。
- ダイシング:ウェハーを切って、ひとつひとつのチップに分離する
- ダイボンディング:チップをパッケージ用の台座に載せて、接着剤を使用して固定する
- ワイヤーボンディング:金属の枠にチップを固定、金線で接続する
- モールディング:チップを傷などから保護するために、樹脂でパッケージする
- 最終検査:温度や電圧、電気的特性の試験、外観構造検査など何重にも試験を行う。基準を満たさないものは不良品として取り除く
このように後工程で試験を通過した半導体チップが製品として使われ、EVやAIなどさまざまな分野で役立つのです。
次世代パワー半導体がEVにもたらす変化
次に、次世代パワー半導体がEVにもたらす変化についてご紹介します。次世代パワー半導体の誕生によって、EVの性能向上が期待されています。
次世代パワー半導体とは?
従来の工法では、パワー半導体の材料として主に(ケイ素)Siが使用されていました。しかし、現在は炭化ケイ素(SiC)や窒素ガリウム(GaN)などを材料とした次世代パワー半導体の研究が進められており、主に効率的な電力活用で期待されているのです。
更に、材料として、ポテンシャルの高い、酸化ガリウムやダイヤモンドの研究開発も進んでいます。
EVにもたらす変化
次世代パワー半導体として注目されているSiCやGaNは、従来のSi半導体よりも材料のバンドギャップ(エネルギー帯域)が広く、Siよりも半導体の耐電圧が高い特徴があります。
また、スイッチング損失が低くなって発熱における損失エネルギーが抑えられるため、燃費が向上します。さらに、放熱機構やインバーターの軽量化が可能になる点から、EV製造時のコスト削減にも期待されています。
Orbrayのキャピラリーについて
キャピラリーとは、半導体製造のボンディング装置で使用されるツールです。Orbrayのセラミックキャピラリーは、光通信用フェルールの量産技術である射出成型技術を用いて製造しています。そのため、キャピラリー交換の際のボンディング位置の再調整時間を低減でき、高硬度で長寿命な特徴があります。
また、キャピラリーの内面を研磨し、緩やかな角度にしてあるため、ボンディング形状の安定化だけでなく、金線へのダメージの低減も可能です。そのため、EV向けの半導体パッケージにおいて優れた性能を発揮します。
まとめ|注目が集まるパワー半導体
EVではパワー半導体が活用されており、電力損失の低減や放熱性の向上など大きな役割が期待されています。また、他の分野でも応用できるため、世界各国で研究が進められています。
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