「学びは楽しい」から始まる人づくり。Orbrayアカデミーが広げる学びの輪

「ものづくりは、人づくりだと思うんです」と、並木社長は語った――。精密加工技術を強みにものづくりを続けてきたOrbrayが、いま力を入れているのが、社員一人ひとりの学びを支える「OrbrayAcademy(オーブレーアカデミー)」。
けれど、それは単に研修制度を整える取り組みではありません。社員が学ぶことを楽しみ、職場や部署を越えてつながり、互いに信頼して任せ合える関係を育てていくこと。そしてその学びを、社内だけでなく湯沢という地域にも開いていくこと。
今回話を聞いたのは、並木里也子社長と、教育研修部長としてOrbrayアカデミーを支える斉藤由美子さん。二人の言葉から見えてきたのは、制度の紹介にとどまらない、Orbrayらしい人づくりの姿でした。
ものづくりは、人づくりから始まる

Orbrayのものづくりは、精密な技術によって支えられています。けれど、その技術を扱い、受け継ぎ、次の形へとつないでいくのは、いつの時代も「人」です。
並木社長「やはりものづくり企業に入社した時に、割と早い段階で、ものづくりは人づくりだなと思いました」
並木社長の「人づくり」への想いには、自身の歩みも深く関わっています。大学では教育学部に進み、幼稚園の先生になるための勉強をしていた並木社長。その後も、子どもたちを対象とした野外活動教室に20年にわたり携わってきました。
並木社長「教育のバックグラウンドがあったので、人づくりはもしかしたら自分の得意分野かもしれないなと感じたところはありました」
子どもたちが体験を通して学び、自分の中から意欲を育てていく姿を見てきたこと。その経験は、Orbrayで人づくりに向き合ううえでも、大切な土台になっています。
手探りの対話から生まれた、学びの場
今でこそ多くの社員が生き生きと参加する「Orbrayアカデミー」ですが、最初から完成された組織があったわけではありません。
並木社長「始まりのきっかけは、私が中心に社員との座談会とかコミュニケーション強化を手探りでやっていたことでした。そこへスペシャリストの由美子さんが入ってくださったおかげで、教育研修部、そしてアカデミーが立ち上がりました」
驚くべきことに、二人は最初から細かな計画を話し合って進めたわけではないといいます。
斉藤さん「当初から、話さなくても通じてる感じがすごくありました。名前に込められた意味も、お互い理解が一緒でした」
「スクール」ではなく「アカデミー」。その響きには、ただ教わるだけではない、社員が自ら学びに向かう場としての広がりがあります。
また、人材育成の領域で経験を重ねてきた斉藤さんは、入社後、まず会社の現状を見つめるところから始めました。縦割りの組織構造や役職の多さ、中堅層を中心とした構成など、さまざまな課題を抽出。「教育は3年、5年後の未来のためのもの」という信念のもと、学び・研修は上から実施していくこと、という概念を外し、組織の未来を創造した上で課題を絞り込みました。そして、コミュニケーションに関する課題に丁寧に耳を傾け、打つ手を決めていきました。
その頃、Orbrayでは新卒採用が再び始まり、新しい世代の社員が少しずつ入社するようになっていました。
並木社長「それまでしばらく新卒の入社というのはなかったので、彼らをどう育てていくかというのは大きな課題だったと思います」
斉藤さん「一番最初にやったのは新入社員研修でしたからね。すべてオリジナルで作ったんです」
こうして誕生した「新入社員研修」は、現在のアカデミーを象徴するプログラムとなり、やがてリーダーシップや異文化理解など多角的なプログラムへと広がりました。そして、初年度の受講者は延べ1000人にも達したのです。
斉藤さん「こだわりはまず、たくさんの人が参加してくれること、学びが楽しいと思ってもらえていることです」
並木社長「やっぱり快く送り出してくれる上司や、職場の理解がなければ学ぶことも難しいので、そういったことを積み重ねてきて。今は本当に、『行ってらっしゃい』って送り出してくれるような環境が育っています」
義務としての研修ではなく、上司がその価値を認め、背中を押して笑顔で送り出してくれる。この信頼の循環こそが、アカデミーを単なる制度ではなく、会社全体の「文化」へと引き上げたのです。

学びの場が育てる、信頼して任せ合える空気
Orbrayアカデミーの研修の特徴は、湯沢工場、青森工場、東京オフィスなど、拠点や世代、役職といったあらゆる垣根を取り払い、「縦・横・斜め」につながることです。この機能が、社員のコミュニケーション能力を飛躍的に高め、社員に「自分だけではない」という深い安心感をもたらしています。
並木社長「職場は違っても悩みは一緒なんですよね。女性だけの会ですと、プライベートに関する子育てや親の介護といった悩みも共有できて、『みんな一緒だね』と。出てよかった、共有できてよかった、もっとみんなと一緒に成長していきたいということにつながっています」
こうした安心感が、次の学びや挑戦への後押しになる。並木社長自身も異文化コミュニケーションなど、自身が学びたいと思う講座に積極的に参加し、社員と同じテーブルで対話します。
並木社長が大切にしている言葉の一つに、「太陽経営」があります。それは、太陽のように明るく周囲を照らし、そこにいる人たちに安心感を与えるリーダーでありたい、という想いから生まれた言葉です。家族でいえば「お母さん」や「女将さん」のように、そばにいるだけで安心できる存在。その安心感があるからこそ、人は自分の力を伸びやかに発揮できるのかもしれません。
並木社長「コミュニケーションの強化で信頼関係が構築され、信じて任せ合える。個々の個性が仕事の中で伸びやかに活かされていく文化が浸透していることを、ミーティングでも実感して感動しました」
Orbrayアカデミーが育ててきたのは、知識やスキルだけではありません。社員同士がつながり、信頼して任せ合える空気そのものでもあるのです。

「一社如一家」の想いを、地域へ
社内で培われたこの温かな信頼関係と「学び」の力を、Orbrayは地域全体へ広げようとしています。その発信拠点となるのが、現在建設が進められている新本社、そしてそこに併設される「地域貢献施設」です。
このプロジェクトの背景には、Orbrayが創業時から最も大切にしてきた、ある精神があります。
並木社長「うちには『一社如一家(いっしゃいっかのごとし)』という創業時から続く言葉があって、これまでは社員、ご家族という意味合いでした。しかし、地域の皆さんを招いて餅まきをするなどしたら、その概念が少しずつ広がって、地域の皆さんも大切に守っていく拠点になるんじゃないかなって」
そして、新本社が建設される場所にも、Orbrayが目指す未来と重なる背景があります。この土地は、かつて湯沢商工高校があった場所です。
並木社長「たくさんの学生さんたちが学んでいた場所に、新本社と地域貢献施設、学びを作っていく。それは私たちが目指していくビジョンとマッチしてるなと思います」
かつて学びの場だった土地に、もう一度、学びの場をつくる。その土地の記憶と、Orbrayがこれから目指す姿は、静かに重なっているのです。

社内から地域へ。学びが広がる場所へ

社内で育ててきた学びを、これからは地域にも開いていく。それが、新本社・地域貢献施設を見据えたOrbrayアカデミーの次の構想です。
斉藤さんが見ているのは、社員研修の枠を超えた、地域全体の学びの可能性でした。
斉藤さん「研修を受ける機会がなかなかない地域の企業さんにも、新人研修やビジネススキル、マナーなどのコンテンツを提供できたらと思っています。Orbrayでは“個性活躍”と呼んでいるのですが、そうした取り組みも地域で一緒にやっていきたいですね」
社内で培ってきた学びを、自社の中だけで終わらせない。地域の企業同士がつながり、学び合い、互いの力を高めていく。そこには、斉藤さんが大切にしている想いがあります。
斉藤さん「学ぶ場があるということが、地域の安心にもつながると思うんです。地域のビジネス力が上がって、湯沢の企業力も上がっていくといいなと」
並木社長もまた、湯沢だけに限らず、横手や羽後町など、さまざまな地域から人が集まる場所にしていきたいと語ります。実際に、企業間のコミュニケーションを広げる取り組みも、若手社員たちのプロジェクトとして少しずつ動き始めています。
学びの対象は、企業だけではありません。小学生向けのOrbrayジュニアアカデミーに続き、今後はシニア向けの学びも構想されています。
並木社長「社会人になっても学びをやめない。その仕組みがOrbrayにはあるよ、ということを、地域の人たちとも一緒に広げていけたらいいなと思っています」
さらに、ものづくり企業であるOrbrayらしい学びも広がり始めています。たとえば、テクニカルカレッジで取り組む「図面を読む、書く」こと。並木社長はそれを、新しい言語、共通言語のようなものだと表現します。そして現在は、タイ工場との語学交流も始まっています。
技術を学ぶことも、言葉を学ぶことも、相手とつながるための力になる。Orbrayアカデミーの学びは、コミュニケーションを土台にしながら、技術や語学の領域へも広がろうとしています。その先にあるのは、特別な人だけが学ぶ場所ではなく、湯沢で働き、暮らす人たちにとって、学びがもっと身近にある未来です。
学びは楽しい。ワクワクが人を育てる
「Orbrayアカデミーの指針、二人の共通認識を一言で言うなら?」
そんな問いに対して、斉藤由美子さんと並木社長は、迷いなくこう答えました。
並木社長「私の軸はワクワクです。楽しい、ワクワクしていれば学びは残るし、意欲がどんどん湧いてくるんですよ。お仕事がワクワクしてできる、お仕事が楽しくできるってすごく大事じゃないですか」
斉藤さん「私はもう徹底して学びは楽しいというところに軸があって。それが掛け合わせることで、幸福感につながる。このロジックなんです」
義務として学ぶのではなく、楽しいから知りたくなる。ワクワクするから、もっとやってみたくなる。その積み重ねが、人を育て、仕事の中に新しいつながりや信頼を生んでいきます。
Orbrayアカデミーは、単なる研修制度ではありません。社員一人ひとりが学びを楽しみ、自分の可能性を広げていくための場。そしてこれからは、その学びを新本社・地域貢献施設を通して、湯沢という地域にも少しずつ開いていく場になろうとしています。
ものづくりは、人づくり。その言葉を、会社の中だけで終わらせないために。Orbrayの学びは、人と人をつなぎながら、これからも静かに広がっていきます。

【アナザーストーリー】「何もない」から始まった、スーパー発酵な町での学び
「秋田か……何もないじゃん」
東京出身の斉藤さんは、初めて湯沢を訪れた時のことをそう振り返り、明るく笑います。18時を過ぎると静まり返る街ですが、一歩店に入れば満席。
「限られているからこそ、本当に美味しいものだけが残る。文化ってこういうことか」そう感じながら、一人飲みも楽しむようになり、この地の虜になりました。

健康好きだという斉藤さんが特に驚いたのが、太い根っこまで味わうセリの美味しさと、豊かな「発酵文化」です。手作業が息づく醤油蔵や酒蔵を巡り、安心安全な食に触れるうち、秋田は斉藤さんにとって「スーパー発酵な町」になりました。
今では、湯沢の工場見学と発酵文化を掛け合わせた「大人の学びツアー」を毎年開催しているそうです。手仕事の価値を共有し、「知ってもらうこと」の大切さを実感しながら、誰より自身が体験を楽しんでいます。
「変わろうとするんじゃなくて、楽しく学んでいたら変わってた。それが一番ですよね」
土地を知ること、食を味わうこと、人と一緒に体験すること。斉藤さんにとって、学びはいつも「楽しい」から始まります。その感覚は、Orbrayアカデミーが大切にしている学びのあり方にも、自然と重なっています。







