人工宝石に「直径0.01mm以下の穴」をあける技術。その小さな穴は、どんなことに役立ってきたか。

Orbray Future ColumnVol.4

Orbray株式会社 精密宝石事業部

アダマンド並木精密宝石株式会社は、
2023年1月1日から社名をOrbray株式会社に変更しました。

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「精密宝石」。弊社は1953年、この言葉を社名に入れました。宝石を使った電力計や高級時計などの部品製造で会社を立ち上げ、今は光通信デバイスや医療機器など幅広い機器に使われる精密な部品を製造する技術への誇りがこの言葉に込められています。

時計の軸受宝石から医療分野まで、さまざまな用途で使われる精密宝石。

創業者、並木一が宝石加工の技術を身に付け1939年に並木製作所を創業して以来、弊社は「切る、削る、磨く」の3つの技術を駆使して宝石やセラミックスのような加工の難しい素材から皆さんの生活に役立つものを作ってきました。弊社は、素材であるダイヤモンドやサファイアの結晶育成から研磨、加工までを一貫して手掛けている数少ないメーカーです。

自然界から産出される宝石は貴重で価格も高かったため、時計の軸受けなど限られた分野でしか使用することができませんでした。しかし 約100年前から 人工サファイアが作られ始め、数十年前からはサファイアだけでなく、ルビー、ダイヤモンドなどの結晶育成技術が一段と進歩、価格も低下し、より身近な材料として使用することが可能になりました。

金属より硬く薬品や温度変化にも強いという特徴を持つ宝石には、古くからの用途に加え、時代の流れとともに、医療分野や半導体分野など新しい使い道が広がってきました。弊社は常に最先端の技術を追い求める顧客企業の要望を受け、時代を先取りする製品を次々に生み出してきました。

ドリルとレーザーを組み合わせ、硬い物質に精密に穴を開ける卓越した技術

皆さんは、地球上で最も硬い物質であるダイヤモンドをどう加工するのか不思議に思いませんか?ダイヤモンドを切ったり、削ったりするのはやはりダイヤモンドなのです。ダイヤモンドの小さな粒が入っている道具を使い、加工目的に合わせてダイヤモンドの粒の大きさを選び、最適な加工方法を選択しています。また、最近は光の力を利用したレーザー加工もよく使われます。

今回は、そうした精密宝石加工の技術の中でも精密な穴を開ける技術についてご紹介させていただきます。この技術には最近、薬剤の研究開発に使われるマイクロ流路や、細胞を一つひとつ観察するための機器といった生命科学の進歩につながる新たな需要も生まれています。

超硬合金やジルコニア、単結晶ルビーなどに細く長い穴を開けるのは、非常に難しい加工です。しかし、加工できても精度が低かったり長時間を要したりしたのでは役に立ちません。弊社は社内でダイヤモンドマイクロドリルを開発し、それとフェムト秒レーザーという熱が発生しにくいレーザーによる加工を組み合わせることにより、ミクロンよりもさらに小さなナノレベルの穴を正確に開ける技術を確立しました。

ダイヤモンドマイクロドリルは、レコード針の生産で培ったダイヤモンドの先端を特殊な形に研磨する技術を応用したものです。穴の最小径は0.1mm、最大アスペクト比>60(穴の長さ÷穴の直径)という非常に細長い穴の加工も可能です。ドリルの直径が細くなるにつれて低下する強度や機械の振動による影響などを克服する必要があり、ドリルと、それを支えるツーリング(保持具)、工作機械、それぞれに幾つもの選択肢があり、スピードや時間といった加工時の変数もあり、まさに他の追随を許さない匠の技です。

ダイヤモンドによる加工は、仕上げをしなくても穴の内面を研磨面にすることもできます。弊社は、ドリルを製造しながら加工も行っているためドリルの特性と工作機械の特性の両方を知り尽くしています。ですからお客様の期待通りの加工を行うことができるのです。

弊社はまた、ビンなどの曲面に穴を開けるのも得意としています。平面と違いビンは場所によって厚さが異なるため、レーザーは使えません。まずドリルで狙いより太い穴を削り、穴が貫通する直前でフェムト秒レーザーに替えて小さな穴を開けます。こうした複合加工は苦手なメーカーが多く、付加価値の高い加工技術です。

宝石がもつ耐薬品性を活かした研究用製品。

この写真は、マイクロ流路(細い管)の例です。左右の筒に入れた2種類の薬剤を石英ガラスやサファイアに開けた直径0.46ミリメートルの細い管で混合し反応を観察することができます。このような器具は樹脂でも作れますが、耐久性や耐薬品性が求められる用途では、石英ガラスやサファイア製が使用されます。

こうした製品は、研究所などから注文を受け、用途に応じて受注生産しています。細い管であれば1グラム何百万円もする高価な薬剤をほんの少し使うだけで済み、実験を何回も行うことができ、また量が多ければ1日、2日掛かる実験も数秒で結果を得ることができます。

最先端研究で用いられる、細胞よりも小さな穴。

現在、弊社の宝石加工技術は最先端の生命科学の研究現場でも使われています。顕微鏡で細胞を観察するために細胞を一つひとつ固定したりマニピュレーション(操作)する場合、石英ガラスの板に小さな細い穴を数十個開け、薬品でばらばらにした細胞がその細い穴に一つひとつ固定されるようにポンプで細胞が入った液体を吸引する装置です。細胞が穴の上にうまく固定されるには、6~25ミクロン大の細胞よりも少し小さい穴を開けることが求められます。

このように人工宝石の用途は、人間の命を守るための研究にも使われるなど一段と広がりをみせています。

弊社の人工宝石の加工技術やノウハウは非常に高精度。新たな用途でも他社には簡単に真似できないことから、こうした新たな分野でも先行して開発を進め、優位な地位を占め続けられると考えています。

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