戦前から続く企業の事業継承、我々が選んだ新たな道。

Orbray Future ColumnVol.6

代表取締役社長 並木里也子
代表取締役副社長 和田統

アダマンド並木精密宝石株式会社は、
2023年1月1日から社名をOrbray(オーブレー)株式会社に変更しました。

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私と和田副社長が経営のかじ取りをすることになった経緯をお話しします。

アダマンド並木精密宝石は、ものづくりに熱い思いを持った初代と2代目社長が合わせて80年にわたって牽引してきました。しかし、7,8年前、業績が悪化し、コンサルタントに入っていただいて経営の立て直しに取り組むことになりました。

2代目社長だった父章二はきっぱりと経営から退くことを決め、次期社長に私を指名しました。私は、創業家の一員ではありますが、元々アスリートで、子どもたちの自然体験教育に携わっており、家業を継ぐことはまったく考えていませんでした。

そんな私が社長になったことに不安を抱かれた方も多かったのではないかと思います。しかし、私は、父と話をし、会社の立て直しは創業家の手で行いたい、資産を投げ打ってでもこの会社を立て直すと決意し、またそれができるのは私しかいないと思いました。

そこで、創業時の「一社如一家(いっしゃいっかのごとし)」というバリューに立ち返り、従業員の幸せを最優先に考える社長としての責務を私が担い、個別の事業の運営については、コンサルタントとして業績のV字回復を主導してくださった和田さんにサポートをお願いすることにして新体制が発足しました。

ここからは、和田副社長に弊社への入社を決められた経緯や会社への思い、副社長として、この会社にどのような未来を描いていらっしゃるかなどをうかがっていきたいと思います。

コンサルタントから副社長へ、なぜOrbrayを選んだのか。

並木:和田さんはコンサルタントとして百社以上の企業の経営に関わって来られ、その手腕を高く評価されていました。弊社でも最初の1,2年はコンサルタントとして多くの社員の信頼を集めておられましたので、是非、和田さんを会社に迎え入れたいということになりましたが、そのオファーを受けていただける自信はありませんでした。

和田さんは、大企業などからより魅力的なオファーを受けていたにもかかわらず、なぜ弊社を選ばれたのですか?

和田:大きな会社は私でなくても回りますが、アダマンド並木には、私しかいないと思いました。加えて、里也子さんのお人柄もあって、サポートしていきたいと思いました。

並木:コンサルタントから製造業の中堅企業の副社長への転身。話が決まったとき、銀行が腰を抜かすほど驚いたそうです。

和田:私は2000年に大学を卒業し、大手銀行で法人営業に携わっていました。その頃は景気が悪く幾つもの顧客企業が倒産したり廃業するのを目の当たりにして、そういう会社を踏み込んでサポートできないかと思うようになり、コンサルティング会社に移りました。そこでは、不祥事を隠蔽して大問題となった超巨大企業の再建、ガバナンス不足により全国的な不祥事を引き起こした中堅中小企業への抜本的対応、その他業績が悪化して資金繰りに苦しむ企業の再生、国内外のM&A(企業の買収・合併)などさまざまな案件に関わりました。

並木:弊社へも最初はコンサルタントとしていらしていただきました。あの時は、長年貢献してくれた社員が大量に離職し、赤字が続いて改善の目途が見えないという状態でした。

和田:私のチームは、2017年、経営立て直しのため、チェアマンと呼ばれていた章二社長と一緒に再建に取り組んだのですが、普通だったら2~3年掛けて行うような改革を半年足らずでやらなければなりませんでした。

まず、旧アダマンドと旧並木精密宝石の合併実務を進める一方、5つの事業それぞれについて改革を進めました。また、社員の皆さんには大変申し訳なかった事ですが、国内外の複数拠点の整理・縮小を進め、全社員の20~30%、総数600~700人に退社していただかなければなりませんでした。同時に、経営体制見直し及び役員報酬削減など、経営責任としてのけじめを実施しました。なお、拠点整理には2つの会社の本社の統合及び一部国内外拠点の閉鎖なども含まれており、膨大な時間を議論と実務に費やし、今でもあの短期間によくやり遂げることができたとため息が出るほどの仕事量でした。

並木:そうした中で大切にされていたのはどんなことだったでしょうか?

和田:こうした差し迫った局面では様々な立場の方が各々異なる意見・リクエストを主張するのですが、その方たちがお互いの立場を理解して、限られた時間の中で同じ方向を向いて前に進んでいくための共通認識を醸成するということを一番に考えました。

並木:家に帰る時間もなく会社に寝泊りしていた時もあったそうですね。社員の人たちの話をよく聞いてくださり、信頼を勝ち取られ、社員が一丸となって改革を進めることができたと聞いています。

和田:社内だけでなく、取引先からもこれからどうなるんだといった問い合わせが来ますし、取引銀行や株主への説明や交渉もありました。そうした中で、最も不安なはずの社員たちへの説明には一番気を遣いました。

半年の間に100人を超える社員たちと共に改革を進めましたが、もともとアットホームな会社だったせいか、すごくやりやすいと思っていました。

2018年度には連結営業利益について、前年の20億円の赤字から10億円の黒字へと転換し、業績V字回復を果たすことができました。その頃、里也子さんへ社長を譲るのでサポートをしてもらえないかと章二さんより頼まれました。私としても、黒字回復で終わりではなく、もっと会社を良くしていきたい、もっと深く関わりたいという思いもあったので副社長をお引き受けすることにしました。

経営改革やコロナ禍を通じて実感した、Orbrayの強み。

並木:ちょうどコロナの感染拡大が始まった頃でしたね。

和田:お客様からの引き合いが減少して業績への不安が広がりました。今後の方針を明確にすることに集中し、将来の減収を予め予想した上で具体的対策を進め利益を確保できました。

また、コロナを機に働き方改革にも着手しました。もともとは顔を合わせて会議をしないと気が済まないタイプの人が多かったのですが、コロナ禍を機にリモート勤務を増やし、出張を減らし意識改革を推進しながら、業務効率化に努めました。

並木:コロナのせいで会社の方向性を示す大事なメッセージも社員に直接伝えることができませんでした。けれども、全社員向けビデオメッセージ発信を定期的に実施し、社員の安心感・一体感醸成に努めました。コロナは改革をやりやすくした面もありました。

和田:もともと、オペレーション、QCD管理、各部署への機能の持たせ方、工程設計、試作~量産の考え方、カイゼン活動などよく考えて作られている現場だと思っていました。1年でV字回復できたのは、現場がそれぞれの仕事をしっかり果たしていたからです。現場の頑張りはすごかったです。彼らと仕事をしながら、初代、2代目が長年築き上げてこられた現場力の素晴らしさを実感させて頂きました。

並木:温かい人が多いです。特に工場がある東北地方は、人柄が真面目で職人が育ちやすい土地柄だと思います。その一方、営業の拠点は東京。このバランスがいいと思っています。

和田:もう一つ重要なのが技術力ですね。かなりニッチな分野が何十もあって、その集合体が弊社です。各分野の中でも多種多様なカスタマイズ製品がありますが、現場で必要な生産設備・ツール・独自のカスタマイズ対応など社内での内製対応は、他社ではなかなかできることではありません。

また、弊社は日本の製造業としては珍しく小さい取引先が数多くある文字通りの独立系で、特定大口先への依存度は低く、これも素晴らしい強みだと思います。

社員一人ひとりの声を聞く、風土改革への取り組み。

並木:本当にお客様に恵まれていると思います。しかし、いいところばかりではありませんでした。大胆な経営改革が必要な状態に陥っており、放っておいたら潰れてもおかしくない状態になっていました。

和田:初代や2代目が何十年も前に始めたことがそのまま変わらず続いている時代遅れなところも目に付きました。事業ポートフォリオ・経営の仕組み・組織・会議体・システムといったハード面は合併前から改善を進めていますが、風土・文化を含めたソフト面の改善の必要性を痛感しました。例えば、「これ、明日までにやってくれ。できるよな。」というような上から目線の言い方は今の若い人には到底受け入れられませんが、そういう言い方が一部で横行していました。一方、若い人からは、いくら進言しても聞いてもらえないという声も聞こえていました。また、土曜日や休日の出勤も多かった。機械を動かさないといけないから何週間かに1回は土曜や休日出勤するのが当然と、当時の上の方々は思っていました。この数年で相当数減らしましたが、まだ一部残っています。

並木:管理職に女性がほとんどいないことも何とかしたいと思っています。6月、女性社員向けの自己啓発セミナーを開催しました。今は女性が管理職になりたいなんて言える雰囲気ではないので、「みんなで頑張っていきましょう。みんなでキャリアアップしていきましょう。」という雰囲気を醸成し、女性社員のエンゲージメントを高めていきたいと思います。

和田:年代の壁も大きいです。20歳代は1割に満たず、50~60歳代が3~4割を占めています。若い人が改善を提案しても、ずっとこれでやってきたのに、なぜ変えなければいけないんだと上の方たちは思ってしまいがちです。若い人たちが言っていることは、愚痴だと考えてしまうのです。また、行き過ぎた言動などを私が注意したら、あの人は悪くないと同年配の人たちがかばったこともありました。長年の貢献・尽力は当然に敬意を表すべきものでありますが、時代に合わせて会社・組織は変化していく必要があります。

並木:お互いを知れば助け合っていく気持ちが生まれると思います。社員一人ひとりとの個別面談を行ったのですが、トップへ思ったことをぶつけられる機会は大切だと思います。職場の雰囲気も、少しずつ変わってきていると感じています。

和田:これまでは部署間のコミュニケーションもあまりなく、隣の部署のことは全く知らないという方も多かったです。違う部署間でもお互いにコミュニケーションを取り、理解し合うということが大切だと思います。

並木:個別面談とは別に10人~20人のグループインタビューも行っていて、どんな仕事をしているかを話してもらい、社内報にアップしています。一人ひとりの写真も載せているので、他の部署の人に声が掛けやすくなりました。誕生月の同じ人達を集めて一人ひとりにバースデーカードを渡すようにしています。最初は静まり返った中で私がひとりでしゃべっていましたが、だんだん、話しかけてくださるようになってきました。先日は、どんな社長になりたいですかと聞かれ、家族のようにお互いに思いやったり話しかけたりできる関係になりたいとお話ししました。

和田:工場で毎日、社員の皆さんの出退社の時の声を聞いていますが、声が明るくなってきたのを感じます。

世界のどこにもない人類の役に立つものを作る。Orbrayと日本の製造業のこれからについて。

並木:最後にOrbrayの未来についてです。初代、2代目ともカリスマ性のある人で、トップダウンで事業を拡大してきましたが、これからは現場とのコミュニケーションやボトムアップを重視する経営スタイルにします。また、技術と人を大切にし、会社の中で学び続けられるようにしたい。社員の研修や育成を強化しエンゲージメントを高めていきたいと思います。

一方で、オーナー経営は変わりません。私は、オーナー経営は持続可能な最強のビジネスモデルだと感じています。私の役目は、次世代にどうバトンを渡すかを考えることです。初代から受け継がれてきた思いを次世代へ繋げ、何百年先まで続く会社を作っていくつもりです。

和田:弊社にはフォトニクス、精密宝石、モーター、医療装置、そしてダイヤモンドという5つの事業部がありますが、事業ポートフォリオを変えるつもりはありません。今は非常に業績が良く、今年度は売り上げが250億円、営業利益が40億円の見通しです。財務の健全性を示す純資産も、今年度末に120億円へ到達する見込みです。2年前は売り上げが144億円で営業利益は2億円でした。各事業部の施策について適宜マイナーチェンジはしていきますが、大きな方針は変えなくてよいと考えています。

並木:ただ5つの事業の中でも力を入れていきたいところはあります。

和田:医療分野ですね。どの事業部も少しずつ医療に関わりがありますが、医療用輸液ポンプ、外科手術用ドリル向け小型モーター、歯科用ジルコニアのデンタルブロックなど様々なラインナップがあります。医療関係は数年でかなり大きく成長しており、今年度250億円の当社売り上げのうち100億円を超える見込みです。弊社の主力とする通信や半導体は波が激しいですが、医療は景気変動の波を受けにくくかつ将来も安定した成長が見込めます。医療で求められる緻密さ・精密さおよび品質対応は弊社が主力とする精密機器とも親和性があります。売り上げの半分以上が医療になれば、収益がより一層安定すると考えています。

医療用輸液ポンプはもともと別のグローバルメーカーが元請であり弊社はその下請けだったのですが、そのメーカーが撤退することになったときに2代目が元請として事業を譲り受けました。当時社内ではこんなのできるわけがないと言われたらしいのですが、「思い切ったことをやらないとだめだ。」と押し切ったそうです。

また、これから国内は人口減で売り上げは減っていきますから、海外の売上比率を引き上げていくことも必要と考えています。今は海外の売り上げが120~130億円を超えたぐらいです。円安も追い風となり、欧米中心に海外売り上げはさらに伸びると考えています。

並木:わたしが大切にしたいと思っているのは人です。「一社如一家」の考えに基づいて待遇面の改善、働きやすさや社員の心理的安全性を高め、社員のエンゲージメントの向上につなげていきたいと思っています。それから若い人を採用し長く働いてもらうことが大事だと思っています。社員が自分のお子さんも入れたいと思うような会社にしたいと思っています。

売り上げを何千億円にする必要はないですが、何百年と続く会社にしたいと思っています。連結売上高300億~400億円、営業利益30億~40億円をコンスタントに出せる会社にしていきたいと考えています。

それぞれのニッチな領域では世界ナンバーワンを目指します。アイデアと粘り強さで、世界のどこにもない人類の役に立つものを作っていきたいと思います。

和田:日本は過去20年~30年にわたり、中国やASEANへ進出して工場を建設してきました。私はコンサルタントとしてそれを支援してきましたが、それによって日本国内のものづくりの存在感が薄れてしまったと忸怩(じくじ)たる思いを持っていました。

ただ、近年はかなり潮目が変わってきたと思います。今は中国やASEANでも製造業離れが進んでいます。一方、コロナ禍で半導体など部材が不足したことの反省に立って、コストを追求するだけでなく国内でも製造しなければならないという流れになってきました。円安も追い風になっています。私はこれが一過性ではなく、今後5~10年で日本国内への生産回帰が全国的に加速すると考えています。日本の製造業のより一層の発展に期待しています。また、今後、正社員・非正規社員ともに待遇の改善をしっかり進めていきたいと考えています。

並木:最近、製造業の2代目、3代目の方とお会いする機会が増えています。弊社だけで出来ることには限りがある中、今後はそういう方たちとのネットワークをつないでいって、世界に向けてオールジャパンでやっていきたいと思っています。

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