光電融合、シリコンフォトニクスで必要となる高精度加工技術
近年、情報通信技術の急速な進化により、データ処理の量や速度が飛躍的に上昇しています。今後更にデータ量の増加が予想されており、様々な問題が見えてきました。問題の解決策として注目を集めているのが光電融合とシリコンフォトニクスの技術です。
NTTは次世代ネットワーク基板となるIOWN®(Innovative Optical and Wireless Network)構想を提案しました。IOWN®構想の3つの要素の1つが、オールフォトニクス・ネットワークです。光電融合、シリコンフォトニクスの技術は、オールフォトニクス・ネットワークを実現するための鍵となります。そして、光電融合、シリコンフォトニクスでは、光を正確に導くための高精度加工技術が必要となります。
本記事では、光電融合、シリコンフォトニクス、IOWN®、高精度加工技術について解説します。
※「IOWN®」は、日本電信電話株式会社の商標又は登録商標です。
目次 [閉じる]
データ処理量の増大と高速化により起こる問題
近年のデジタル技術の進歩により、社会活動は大きく変化しています。実現されるまで10年以上もかかると言われていたリモートワークが、今では当たり前のように行われるようになりました。自動生成AIの技術は飛躍的に向上し、より人間に近い反応を高速に行えるようになりました。他にも、多くの企業が、様々なクラウドサービスを用いて業務改革を進めています。
これらを支えるインフラとなる、データセンターやネットワークシステムの需要は年々増大し、扱うデータ量も増加の一途をたどっています。データ量が増えれば、より高速な処理を行い、遅延なくデータが送られるようにする必要がでてきます。ここで問題となるのが消費電力の増加です。
データセンターに設置される多数のサーバーやネットワーク機器は、多くの電力を消費します。高速に処理を行えばより多くの電力を消費し、発生する熱も高くなるため、冷却装置や大容量電源も必要です。現在、データセンターで消費される電力は、世界総消費電力の数%程度とされていますが、データ処理量が増え続ければ、さらなる消費が見込まれます。省エネルギー、脱炭素と言われている昨今において、データ処理量の増加需要を満たしつつ消費電力をいかに抑えるかは、発展し続けるデジタル社会において急務の課題です。
しかし、デジタル機器に用いられる、CPU、GPU、メモリー、伝送回路などのエレクトロニクスデバイスは、高速に動作するほど多くの熱を発するため、消費電力を抑えつつ更なる処理能力の向上を図ることが困難になってきました。この課題を解決する技術として注目を集め、研究、開発が進められているのが「光電融合」「シリコンフォトニクス」の技術です。
オールフォトニクス・ネットワークを実現する光電融合
NTTは、従来のエレクトロニクス技術からフォトニクス技術にシフトすることで、大容量、低遅延、低消費電力を兼ね備えた革新的なネットワークを構築する、IOWN®(Innovative Optical and Wireless Network)構想を提唱しました。IOWN®構想は、3つの要素から構成されています。1つめが、ネットワークの末端まで全てにフォトニクスベースの技術を導入する「オールフォトニクス・ネットワーク」。2つめが、全てのICTリソースをつなぎ、柔軟な制御を実現する「コグニティブ・ファウンデーション」。3つめが、従来のデジタルツインの概念をより発展させ、モノやヒトの相互作用をサイバー空間上で再現する「デジタルツインコンピューティング」です。
オールフォトニクス・ネットワークを実現するためには、光電融技術が欠かせません。光電融合とは、電気信号を扱うエレクトロニクス回路と、光信号を扱うフォトニクス回路を融合させ、高速処理、低消費電力を実現する技術です。光信号は電気信号に比べて高速、低損失、低エネルギー消費であり、エレクトロニクス回路と、フォトニクス回路を融合することにより、消費電力を抑えた高速処理が実現できます。
光電融合技術を実現するには、いままで電気信号で処理していたデバイスを光信号により処理できるデバイスに切り替えることや、電気信号と光信号とを交互に高速で変換できるデバイスが必要になります。また、光信号は、接触していれば伝送できる電気信号と異なり、正確に位置調整してデバイスへ光信号を導く必要があります。
1つのシリコン基板上に光と電子の回路を形成するシリコンフォトニクス技術
シリコンフォトニクスの技術も、オールフォトニクス・ネットワークの実現には欠かせません。シリコンフォトニクスは、光導波路や光スイッチ、受光器などのフォトニクスデバイスによる光回路と、エレクトロニクスデバイスによる電子回路とを1つのシリコン基板上に集積する技術です。
光回路は高速大容量のデータ伝送が可能です。近年、データ量の増大から、光回路による高速大容量の伝送処理を電子回路内に導入することで、処理能力を向上するとともに、低消費電力化を目指す取り組みが行われています。しかし、個別のフォトニクスデバイスを基板上に配置して光回路を構成した光学ユニットは、それぞれのデバイスで電力を消費し、異なる素材で構成されているため、小型化や省電力化が困難でした。
シリコンフォトニクスでは、半導体デバイスの製造技術を用いて、光回路と電子回路とを1つのシリコン基板上に集積します。これにより、光信号の高速、低損失、低エネルギー消費の特性を活かした、高速大容量、低消費電力の通信デバイスが実現できます。また、従来の半導体デバイス製造技術を用いて製造できるので、比較的低コストでありながら、より小型化されたデバイスの製造も可能です。
シリコンフォトニクス技術は、大容量、低遅延、低消費電力を目指すオールフォトニクス・ネットワークにおいて重要な技術であり、今後は通信分野以外への応用も期待されています。
高密度集積化されたシリコンフォトニクスによるデバイスへ光を導く技術
シリコンフォトニクス技術はオールフォトニクス・ネットワークの実現に欠かせない技術ですが、シリコンフォトニクス技術のために必要な技術があります。それがデバイスへ正確に光を導くための高精度加工技術です。
光信号を扱う回路やデバイスへは、他のデバイスなどから送られた光信号を引き入れる必要があります。大きさのある光ユニットならば、光コネクターで接続して導けますが、シリコンフォトニクス技術により小型化されたデバイスに、光コネクターを使って光信号を導くことは困難です。光信号を受ける受光素子と光信号を伝送する光ファイバー、または光ファイバー同士の位置を正確に決めて、低損失で光信号が伝送できるようにしなければなりません。
光信号をデバイスへ正確に導くためには、高精度加工技術により製造された様々な接続デバイスが必要です。例えば以下のような接続デバイスがあります。
・狭ピッチファイバアレイ
狭ピッチファイバアレイは、ファイバエッチング技術とV溝基盤加工技術により製造された接続デバイスです。
狭ピッチのV溝基板やマイクロホールアレイに光ファイバーを整列、または挿入して固定し、端面をサブミクロンオーダーの高い平坦度で研磨します。複数の光ファイバーから光導波路素子に信号を入力する際や、光導波路素子から複数の光ファイバーに信号を分ける際に用いられます。
・曲げファイバアレイ
曲げファイバアレイ技術は、光ファイバーを放電熱で曲げてアレイに組み込む画期的な手法です。
曲げファイバアレイを回折格子型のシリコンフォトニクスデバイスとの結合に使用することで、光デバイスの小型化を実現します。
・ガラスキャピラリ
ガラスキャピラリはシリコンフォトニクスデバイスとの接続に欠かせない部品です。他の素材に比べ、加工性、柔軟性に優れており、光コネクターのPC接続特性で良好な結果を出すことが可能です。
また、UV光透過率の高さもガラス材質の特徴です。これを活かし、紫外線硬化型接着剤を用いた光ファイバーやレンズ等の高速固定が実現できます。
・TEC融着技術
TEC融着とは、融着装置で放電熱によって光ファイバー同士を接続する技術です。
光回路(PLC, シリコンフォトニクス等)の導波路と通常ファイバーとにおける、異径MDF接続用光I/Oデバイスの製造で使用されています。
NAの異なるファイバーや、クラッド径、コア径の異なる様々なファイバーの融着が可能です。
高精度加工技術が次世代ネットワークを支える
デジタル技術の発展により、社会活動が大きく変化しました。次世代ネットワーク、オールフォトニクス・ネットワークが実現されれば、今までも体験できなかったようなことが、体験できるようになるかもしれません。そのためには、解決しなければならない課題も多くあります。
高精度加工技術は、次世代ネットワーク実現の鍵となる光電融合、シリコンフォトニクスに必要な技術です。高速大容量、消費電力低減、小型化が更に進めば、高精度加工技術に対しても、より高度な要求が出てきます。更なる高みを目指し、開発、発展を続けていきます。
お問い合せは下記フォームに入力し、確認ボタンを押して下さい。
※お問い合わせフォームからのセールス等はお断りいたします。送信いただいても対応いたしかねます。