ダイヤモンドとマイクロリッジ針
前回の4チャンネルレコードの登場とシバタ針に続き、マイクロリッジ針が誕生します。
天然ダイヤモンドのブロックを使った「ムクのダイヤモンド針」はやはり、レコードの再生針の王様だ。
再生針は、レコードの音溝に直接に接触するもっとも大切な部品です。
ところで、再生針がレコードの音溝に接触する面積は、数十万分の1c㎡ぐらいしかありません。このため、例えば、丸針を通常の針圧でかけたとして、レコードの音溝にかかる圧力を1c㎡当りに換算しますと、3~6トンもの重量になります。余談ですが…満員電車などでハイヒールの踵で足を踏まれたことがある方も少なくないと思いますが、あんなに痛いハイヒールの踵でさえ、1c㎡当り25kgですから、いかに音溝にかかる再生針の重量は大きいか判ります。
このような重量のため、レコードの音溝は変形しやすく、摩擦熱およびホコリなどの影響により再生針の摩耗も早まります。このため、再生針の材質は古くから改良されてきました。硬度の点から、鉄針、タングステン針、サファイア針、ダイヤモンド針へと大きな変革がなされてきました。
もっとも硬度の点で優れるソリッド型ダイヤモンド針、いわゆる「ムクのダイヤモンド針」は天然ダイヤモンドを使用するため、再生針自体が高価になってしまいます。このため、レコード音溝の接触部においてのみダイヤモンドを使用し、他の部分は安価な金属を使用する「溶着針」が開発されました。初期のころは鉄が使用されましたが、再生針自体の質量が増加することから、振動系の等価質量も大きくなり高域の共振周波数
を低下させる原因となりました。その後、比重の小さなチタン溶着針が開発され、溶着針の質量の低減化が行われました。また、人造ダイヤモンドによる溶着針も登場しました。しかし、やはり天然ダイヤモンドによって作られた「ムクのダイヤモンド針」は、その研摩精度、軽量性、耐摩耗性、品質の安定性に置いて、溶着針をはるかに越えています。さらに進歩して、カンチレバーまで一体のムクのダイヤモンド針が登場して話題を集めました。
レコード針の集大成。帯状のコンタクト形状(マイクロリッジ)
このマイクロリッジ針は、従来不可能とされていた極小曲率半径をもち、数ミクロンの巾と適当な高さを持った帯状のコンタクト形状(マイクロリッジ)の針です。従来の針では数ミクロンの針を作ってもたちまち摩耗により曲率が大きくなり、性能が低下したのに比べ、マイクロリッジは摩耗によりその曲率が変化しにくいため、初期の性能がそのまま最後まで持続します。マイクロリッジ構造がもたらす極小曲率半径の針のもつ可能性は将来、走査針を用いた録音技術の根本的な改善を期待する事も出来ると考えられました。
特徴
- 音の分解能が優れている
- 音の透明感が非常に優れている
- 音の定位が良い
- 臨場感が優れている
- 音につやがある
- レコードのノイズが少なく聴こえる
マイクロリッジ針の説明はOrbray精密のWEBサイトでも行っています。
今回で「レコード針のはなし」シリーズは最終回となります。
レコードの誕生から100年以上経ちますが、原音再生への努力は絶え間なく行われてきました。その間、これを再生するオーディオ機器はめざましい進歩を遂げました。
さて、レコード再生において、音の情報を最大限に引き出すには、オーディオ機器の性能も重要ですが、直接レコードから音の情報をピックアップする再生針の性能はもっと重要です。鉄針・サファイア丸針から始まった再生針も楕円針、ラインコンタクト針と発展しそのトレース能力は飛躍的に向上。音の情報を最大限に引き出すことができるようになりました。その背景には“ 天然ダイヤモンド” をきわめて精密に加工する技術の発達がありました。
なにげなく聴かれてきたレコード。この音を拾っているのは、ひとつの小さな、小さな再生針なのです。この小さな再生針、現在のような高性能なものになるまでに、幾多の変遷の歴史がありました。「針のはなし」ではそんな変遷の歴史を図解とともにやさしく解説してきました。
レコードへの、再生針への愛着はいっそう高まりましたでしょうか。
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