金属ガラスとは 新素材合金 特性と用途
金属ガラスは、強くてたわみ易く、耐食性にも優れたユニークな特徴をもつ金属材料です。金属ガラスの誕生は1980年代と金属材料の歴史の中では比較的浅く、実用化の例はそれほど多くはありませんが、今後、工業製品への用途拡大が期待されています。
名称にガラスと付くことから、窓ガラスなどの透明なガラスをイメージされる方もいらっしゃるかもしれませんが、外観はステンレスと同じような金属色であり、ガラス食器のように落としたらすぐに割れてしまうことはありません。今回は金属ガラスの強度を生かした適用例を2テーマご紹介します。
金属ガラス製 歯車のメリット
歯車は動力を伝達する機械要素として、古くから用いられており、カメラやウオッチなどの精密機器から工作機械や鉄道車両・船舶などの大型機械まで、ありとあらゆる箇所で使用されています。
また、歯車に用いられる材料は、鉄鋼材、非鉄金属、プラスチックなど、様々です。
金属ガラスは船舶用などの大きな部品は不向きで、精密機器用の歯車に使用するとそのメリットを発揮します。なぜ、大きな部品に不向きかというと、サイズが大きいと成形時に溶解された金属ガラスの冷却速度が遅くなり、結晶化して脆くなってしまうからです。サイズについては、丸棒材ですと直径約5mm以下、板材ですと厚み3mm以下が結晶化しない目安です。
それでは、金属ガラス製精密歯車のメリットについて、ご紹介します。
メリットの1つめは高強度の部品が作製できるということです。
金属ガラスの引張強さは1600MPaと高く、未処理の状態でも熱処理した鉄鋼材料と同レベルの強度があります。大きな負荷がかかる歯車部品の折損(=歯が折れる)対策として有効です。
歯車へ負荷がかかった場合、歯車の根元部分に最大の曲げ応力が生じます。このときの応力が、材料の許容応力を超えると歯が折れたり、亀裂が生じたりします。材料強度が向上すれば、歯車の折損を防ぎ、製品の高負荷対応、長寿命化、メンテナンス頻度低減に繋がります。また、歯車を小さくしたり、薄くしたりすることもできるので、製品の小型化・薄型化をすることができます。
また、金属ガラスは熱処理が不要であるが故に、熱処理による寸法変化がなく、高い寸法精度が実現できます。
なお、摩耗や疲労などの長時間繰り返し応力がかかる使用については、金属ガラス製歯車が勝る場合と鉄鋼製歯車が勝る場合があります。これは、歯車の設計や相手歯車の材質、負荷や回転数などの運転モード、雰囲気温度や潤滑などの環境条件などによって異なるためであり、使用に近い条件で試験を行う必要があります。
メリットの2つめは、高精度で複雑な部品を射出成形法によって作製できるということです。金属ガラスは成形時の凝固収縮が少なく、金型への転写性に優れます。
例えば、金型を用いたMIM法(Metal Injection Mold)で作製される従来の部品は、収縮率が10~20%ですが、金属ガラスの収縮率は0.2%以下と極わずかであるため、MIM法よりも高い精度の部品を作製することができます。
歯車を高精度に作製することで、バックラッシの低減、伝達効率向上、騒音低減などの効果も期待できます。
これまで当社が作製した歯車の一例ですが、モジュール22μmで直径182μmの超小型の金属ガラス製歯車を実現しています。
以上、歯車を例に説明しましたが、歯車に限らず、動力を伝達する他の機構部品や構造体など、精密で強度が必要とされる部品についても同様のメリットが期待できます。
金属ガラス 特徴を生かした腕時計用パーツ
従来のウォッチ(腕時計)の外装部品、例えばケースやベゼルといった部品の多くは、ステンレスやチタンが材料として使用されています。金属ガラスはステンレスやチタンよりも3~5倍の引張強さを持ち、誤って落としたりぶつけたりしても変形しにくく、キズもつきにくいため、長い年月にわたり、高級感のある外観品質を維持します。また、ウオッチの外装部品は塩水や汗などの環境に対して腐食がなく、肌につけても金属アレルギーを起こさない材料が求められます。
金属アレルギーは、塩水や汗などが材料に漬かることによってニッケルが溶け出し、これが肌に触れることで起こります。当社の金属ガラスにはニッケルも含まれていますが、規格で定められたニッケル溶出試験によるニッケル溶出量は微量であり、金属アレルギーを起こすことはありません。また、腐食テストにおいても従来材であるステンレスやチタンと同等以上の耐食性を有しており、長い年月にわたり、表面の変質や劣化がありません。
ウオッチに磁石を近付けると時刻が狂ってしまうことは良く知られていますが、これは磁石によって、材料に磁気を帯びてしまうからです。金属ガラスは磁石を近付けても磁化しづらく、ウオッチムーブメントの精度を狂わすことはありません。
また、金属ガラスは精密金型と射出成形法によって作製されますが、精度よく金型の形状を転写するので、複雑で微細な凹凸模様を成形で作製できます。また、成形後に切削等の機械加工を行うことも可能です。材料が硬く、400℃以上の熱に弱いので、金属ガラスに適した加工条件を選ぶことが肝要です。また、鏡面・梨地・ヘアライン加工など、更に美しい外観仕上げを行うことができます。
当社の金属ガラスはスイスの高級ウオッチメーカの外装部品として採用された実績があります。
特性比較
金属ガラスの主な特徴
・機械強度が高い、硬度が高い
・金型転写性に優れ、精密な成形部品が作製可能
・しなやかでたわみ易い
・耐食性に優れる
以上、今回は金属ガラスの強度を生かした2つの適用例を紹介しましたが、次回は強度以外の特性を生かした用途についてご紹介したいと思います。
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