イントロ
全国から約380件の応募があった「中小企業新技術・新製品賞」の審査結果が1本の電話により知らされました。2020年4月、当社の「内周面精密測定機」が最優秀賞に選ばれたとの嬉しい知らせでした。この測定機は外径0.9mmの世界最細径の回転式光スキャナーを工業界で広く使用されている精密軸受等の加工穴に挿入することで、内周面の加工精度を20ナノメートル(1mmの5万分の1)の高精度に測定でき、さらに内表面のポーラスや凹凸状態を測定して数値化できる新しい光学式測定機です。
この光学式測定機は主に、カラー複写機に内蔵される動圧軸受など精密軸受の工場、また、自動車の主要部品である変速機やエンジン部品などの工場に導入されています。
当社の強み技術と業界ニーズ
近年、工業界では情報機器に内蔵される新しい精密軸受や、自動車のエネルギー消費の改善に向けた新しい機械部品が生産されており、それら製品の性能と品質向上の為には新たな精密測定機が望まれています。
当社では2009年に内視鏡用の外径0.9mm細径モータを、また2010年にはこれを用いた回転式光プローブの開発を既に完了しており、これら保有技術に「光干渉光学系の内製化技術」と「画像処理ソフトウェア技術」を加えれば「新たな光学式内周面測定機」が商品化できることが分かっていました。
独自の測定方式:石英パイプ基準測定方式の開発コンセプト
新たな精密測定機の開発にあたり、業界からは大きく2つが期待されていました。
1つは細径の精密軸受内径や焼結軸受内径の測定ニーズでした。当社はこの要求に対して自社技術の外径0.9mmの極細モータを組み込んだ回転光プローブを開発する事で解決できました。
もう1つは測定機自体の精度の向上でした。業界で要求される測定精度(繰り返し測定再現性:シグマと呼ばれる)は、昨今の精度のトレンドが示すように20ナノメートルの高精度が要求されていました。しかしながら、従来の多くの測定機は「機械の母性原理」と呼称される、光プローブを回転走査する時の振れ変化や振動の影響で、目標とする測定精度の達成が阻害されていました。
そこで当社はこの課題に対し、開発プロジェクトメンバーでアイデアを出し合い「石英パイプ基準測定」という新たな測定方式を考案しました。これは、外径0.9mmの石英の極細薄肉パイプの中で、0.6mmの極小径の回転ミラーを当社独自のモータで回転させ、近赤外光を被測定物の内周面に放射することで、得られる干渉光を取得してナノメートルレベルの高精度な測定を行うもので、回転ミラーの回転振れ変化が測定値に影響しない当社独自の方式です。社内プロジェクト起案と産学協力体制
しかしながら、社内で測定機の開発プロジェクトを起案したものの、先に説明したように当社が保有していない2つの重要技術を導入しないと商品化は不可能でした。その中で、関係先であった産総研東北センターから同つくばセンターの光研究部門をご紹介いただき、技術指導を受けたことで、商品開発が一挙に加速されました。
精密軸受業界での活用、自動車業界での活用
新開発の測定機は2019年1月に発売を開始し、販売促進には、開発者ら自身も複数の精密軸受メーカ、自動車メーカに技術紹介に回りました。当初はお客様の測定ニーズにマッチしない点も多くありましたが、一方でお客様から具体的なニーズや詳細な要求仕様を聞き出すことができました。そして測定機に複数の新たな機能を付加するアプリケーション開発を充実させました。結果、精密軸受の測定用途には新たに内周面の動圧溝パターンの測定機能を開発、また自動車部品用途には、内周面のポーラス測定機能と3D形状表示機能を新たに完成し、改めてお客様に紹介して回りました。お陰様で当社の測定機は「内周面を、非接触3D、20ナノメートルの高精度で、高速25秒で、自動測定できる測定機の基本機能」の充実と共に、「内周面のグルーブやポーラス測定機能」を追加し多くの大手企業に納入し、お客様のものづくりに役立っています。
技術者スピリット
私たちは機動力と独自技術を生かし、業界から求められる新製品の技術開発にチャレンジしています。本プロジェクトはもちろん、製品開発を通して自分の技術を生かしてお客様のお役に立てたとき、やりがいを感じると共に自己成長につながっていることを改めて感じることができました。