Orbray株式会社(旧アダマンド並木精密宝石)ブログ。技術のトレンド、製品のワンポイント、SDGsなどについて紹介していきます。

Orbray[TRAD]2024年度グッドデザイン賞受賞

   最終更新日:    公開日: 2024/11

代表取締役社長 並木 里也子

Orbray[TRAD]は2024年10月16日、2024年度グッドデザイン賞を受賞しました。この建物を内装した株式会社日建設計との共同受賞です。
[TRAD]は、空工場を再び蘇えらせただけでなく、そこに地域住民や来訪者も利用できる交流の場としての役割と、ものづくりにおける高度な職人技を目の当たりにできる「魅せる工場」としての役割を与え、新たな息吹を吹き込んだとして高い評価をいただきました。

グッドデザイン賞は、我が国唯一の総合デザイン振興機関である日本デザイン振興会が創造的で豊かな社会の実現を目指して授与するもので、日用品や建築などモノだけでなくサービスやソフトウエア、地域づくりといった目に見えないものも対象となっています。


[TRAD]は、オフィス空間・産業空間インテリア部門での受賞。
しかし、単に建物のデザインに対して与えられた賞ではありません。デザインによって社会課題を解決するなど、人や社会に対して何らかの意義を持つ取り組みであることも審査の基準になっています。

地方に共通した問題ではありますが、Orbrayが長年生産拠点を置く秋田県湯沢市は少子高齢化が著しく進んでいます。
若年女性の都会への流出、それによる婚姻数の減少、生まれる子どもの減少など様々な問題に直面しており、企業は新たな人材の確保が難しくなることが予想されています。

Orbrayは、そんな湯沢に、男性だけでなく、女性が結婚や子育て、介護といったライフイベントを乗り越えて働き続けられる、それもやりがいを感じながら生き生きと活躍できる場所を作りたいと考えて[TRAD]を構想しました。

湯沢はOrbrayにとって思い入れの強い土地です。
約60年前に東京本社工場以外の初の生産拠点として秋田県の招請を受け入れて操業を開始し、まじめで粘り強く仕事に取り組む地元の人たちのおかげで幾多の荒波を乗り越えて創業85年を迎えることができました。雪国ならではの気質を持った社員の貢献がなければ今のOrbrayはないといっても過言ではありません。

その湯沢が人口減少の加速化しているのを座視することはできない。
Orbrayはそう考え、自治体とともに地域を支え地域の活性化に貢献し、地域の皆さんに愛される企業市民になれるよう、この地に本社を移すことを決めました。そして、古くなった工場を順次建て替え、人員の増強をする計画を立案しました。

[TRAD]の建設は、Orbrayのそうした地域貢献への思いを反映した一連の取り組みの一環として計画されました。
[TRAD]に移したレコード針と時計部品の事業は、多様なOrbrayの事業ポートフォリオの源流ともいえる部門です。コロナ禍でひとりで家で過ごす時間が増えたのが1つのきっかけとなり、音質にこだわってオーディオ機器を揃える人が増え、アナログな音源への人気が高まり、レコード針の需要が拡大しました。
 
それを受け、古くなった製造現場を刷新して働きやすい環境を整備すると同時に、顕微鏡を通して宝石の微細な加工を行う職人技を多くの人に見てもらい、この場所をものづくりの素晴らしさに触れられる場所にしたいと考え、見学者が常時訪れることを前提とした「魅せる工場」にすることにしました。


設計に当たった日建設計は、以前の工場で実際に使われていた煙突などの外観を残し、白い壁にレコード針をイメージしたコーポレートカラーのブルーの線を縦に入れました。

内装には秋田杉をふんだんに使い、工場の周辺の豊かな自然との調和を意識しました。けっして大きなリノベーションを仕掛けたわけではありませんが、透明感のあるブラウンに彩られた木材の柔らかな曲線が美しい落ち着いた空間を構成しています。

[TRAD]は、工場であると同時に、私たちが誇る技術のショーケースでもあります。製品を展示台に載せて見せるのではなく、肉眼では見えない微細な加工をモニターに映し出された電子顕微鏡の映像を見ながら加工する「社員たちの姿を見せる」、「体験をつくる」場所なのです。

工場内は見学の人たちが働く人たちを見ながら歩いていても作業の邪魔にならずに進めるように床を色分けしました。また、社員が働くエリアにはOrbrayのコーポレートカラーをアクセントにあしらい、社員の憩いの場であるだけでなく外部の人もよく訪れるカフェは、パレットとして使われていた秋田杉の木枠をアップサイクルして2メートル四方、高さ30センチほどの立方体に積み、上にウレタンの四角いマットレスを置き、ベンチとして使えるようにしたり、湯沢の家具メーカー、秋田木工とコラボしたテーブルとブナ材を使った曲げ木細工の椅子を入れました。

天井が高く自然光がさんさんと入るこのカフェは、社員が優雅にくつろげる場所になりました。もちろんカフェにはレコードの音質を最大限に活かすオーディオを入れ、心地よい音楽を流しています。
 
 
 
 
 
 

応接室は、orb(球体)とray(光)を表現したしつらえにしました。ブルーグレーの壁、天井は楕円形の折り上げ天井にし、間接照明を入れました。

Orbrayの湯沢への思いがこもった[TRAD]。グッドデザイン賞をいただいたことによって、より多くの人に私たちの地方創生や社員の幸せを願う気持ちを知っていただけたのではないかと思います。こんな工場で働いてみたいという若者が増えてくれることを期待しています。
 

公開コメント

決して派手ではないが、過疎化が進む地方都市における応援したくなるプロジェクトである。潤沢な予算はないなかで、短い工期ながらも、様々な工夫とアイデアを投入することで、地域の住民が集まる開かれた工場へのリノベーションを実現したからだ。したがって、塗装や仕上げ材の貼り方向など、確かに手数は少ないが、想像以上に空間の効果を発揮し、デザインの可能性を感じさせる。それまで街とあまりつながりのなかった各地の工場が、この事例のような交流をもつことは、今後もっと増えると良いだろう。
 


受賞対象の詳細はこちら

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