秋田市にOrbrayスタジオが誕生!
代表取締役社長 並木 里也子
秋田市にOutcrop(アウトクロップ)という小さな会社があります。栗原エミルさんと松本トラヴィスさんという海外にルーツを持つ日本育ちの若者2人が立ち上げた映像制作会社です。彼らは、秋田市の空きビルをリノベーションし、5月25日に複合施設「Atle DELTA」としてオープンさせました。私も彼らの思いに共感し、クラウドファンディングに参加、そのリターンとしてスタジオのネーミングライツを取得、もちろんOrbrayと命名いたしました。
アウトクロップのふたりは国際教養大学(AIU)の学生だった頃から秋田県内で映像作品の制作を始め、幻の伝統野菜「沼山大根」を栽培し始めた農家の姿に感銘を受け、それをショートムービーにまとめ、その作品で幾つもの賞を受賞しました。
沼山からの贈りもの
https://outcropstudios.com/documentary/a-gift-from-numayama/
それがきっかけとなり、秋田には埋もれた宝があることに気づいたふたりは、そうした宝を自分たちの視点で掘り出し、多くの人に知ってもらいたいと秋田で起業したのです。Outcropというのは英語で掘り出すという意味です。
彼らは映像制作をするだけでなく、ドキュメンタリー映画をみんなで見てそれについて語り合える映画館がほしいと、秋田市中心市街に座席数わずか十数席の小さな映画館も作りました。月に数日営業するだけの珍しい映画館です。
起業から4年、人数が増え、オフィスが手狭になったのを機に、彼らを支援する実業家が自由に使っていいよといって提供してくれた古い4階建てのビルをリノベーションし、彼らの会社だけでなく地元の会社が入るオフィススペースやコワーキングスペース、秋田市を訪れる人たちがリーズナブルな価格で宿泊できるゲストハウス、さらに1階には、このビルに集まる人と地域の住人が触れ合えるカフェを始めました。
私が彼らと知り合ったのは、昨年11月。ふたりの母校である国際教養大学(AIU)で行われた講演会のゲスト・スピーカーとしてご一緒したのがきっかけです。移住して秋田を盛り上げていきたいという想いが同じで、意気投合しました。
その後、Orbrayの湯沢工場とTRADを見学に来てくださった彼らは、シアタールームに興味を持ち、その時にご紹介したOrbrayのシアタールームの設計をしたオーディオ評論家、逆木一(はじめ)さんにAtle DELTAのゲストハウスに設けた映画館レベルの音響と映像で映画が楽しめる部屋の デザインを依頼しました。
ゲストハウスのシアタールーム
https://deltahostel.booking.chillnn.com/magazine?resourceType=room&resourceID=18eea9582dc269
Outcropは秋田の企業の依頼を受けてプロモーションビデオを制作したり、秋田市の事業で映像を制作するなどして収益を得る一方、自分たちが撮りたいテーマを時間を掛けて丁寧に取材しドキュメンタリーを創っています。
今、トラヴィスさんが取材中のテーマの1つは、自分らしい生活をまっとうできる介護。その取材で鹿児島で介護の事業所を運営する株式会社 いろ葉の代表、中迎(なかむかえ)聡子さんを追い続けています。いろ葉では、入居者ひとりひとりができる限り自宅で生活を続けられるように支援、自宅暮らしが無理になったら施設に入りますが、そこでも自分らしく暮らして最期を迎えられるように温かく見守っています。夜中に起き出して大きな声で歌を歌う、他の施設だったら困った老人と扱われてしまうような入居者も、彼女の施設では問題にされるどころか、スタッフも一緒に歌ったりして楽しんでしまうそうです。トラヴィスさんは、そんな介護の仕方をもっと多くの人に知ってもらいたい、そうした介護に取り組む人を増やしたいという思いで映像作品にまとめようとしているのです。
映像の仕事をするなら東京に行ったほうがいいんじゃないかと思うかもしれません。しかし、彼らは、秋田の魅力を掘り起こしたいのと同時に、大学入学以降、秋田で多くの人にお世話になったことへの感謝、さらには急激に進む人口減少で街が寂しくなっていくのを目の当たりにして危機感を覚え、人が集まる拠点になってほしいとAtle DELTAを作ったのです。このビルは、これから 20年、30年と秋田にコミットしていこうという彼らの決意の表れなのです。
彼らの感性や映像制作のセンスは一流のクリエイターや街づくりの専門家たちにも評価されています。だから、会社がどこにあるかは関係ありません。彼らはAtle DELTAから世界に向けてすばらしい作品を生み出していくでしょう。そして、彼らを中心とした映像制作のコミュニティーが秋田に育っていくことを期待しています。