宇宙産業を支えるダイヤモンドの活用例を紹介

ダイヤモンドはその美しさ、希少性から宝石の王様と呼ばれ、宝飾品として利用されているイメージがありますが、工業部品としても重要な素材の一つとして幅広く活躍しています。
本記事ではその一例として、最先端の宇宙産業での活用事例をダイヤモンドの特徴と併せて紹介します。
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宇宙産業部品に求められるもの
宇宙産業部品に必要とされる性能は製品ごとに多種多様ですが、特に宇宙空間で利用される部品に共通することとして、過酷な宇宙環境に耐えうる信頼性が求められます。
その過酷さの一つは温度です。宇宙空間は真空であり空気がないため、地球上のように空気による熱の広がりや対流が起こりません。その影響から、例えば地球周辺の軌道を飛行するロケットや人工衛星では、日陰で-150℃、日照で+120℃にもなります。
また、地球上では大気圏で守られているためにその影響は感じませんが、宇宙空間では人体に重篤な影響を及ぼす高エネルギー粒子や電磁波が飛び交っており、搭載する観測機器にも重大な影響を及ぼします。
さらに、宇宙機は一度宇宙空間に飛び立ってしまうと修理に制約が伴うため、こうした過酷な環境下でも安定的に動作するように徹底した品質管理と信頼性が求められます。
宇宙産業で重要となるダイヤモンドの特徴
ここでは、ダイヤモンドが宇宙産業で利用されるうえで重要となる特性を紹介します。ダイヤモンドは炭素原子が正四面体形に連なっており、それぞれの炭素原子間が共有結合によって結び付いているため、原子間の結合力が非常に強力です。この特徴により、さまざまな特異な性質が現れます。
高熱伝導性
ダイヤモンドは、全ての物質中で最も熱の伝わりやすい物質の一つとして知られています。熱の伝わりやすさを表す熱伝導率は2000W/m・Kであり、これは熱伝導が良いと認知されている銅と比べて5倍程度です。
一般的にダイヤモンドを含む電気を通さない絶縁体は金属に比べて熱伝導率が低いですが、ダイヤモンドでは炭素原子間が極めて強力な共有結合で結びついており、その振動により熱が伝わるために例外的に高い値を示します。
高温耐性
ダイヤモンドは炭素原子間の強力な共有結合により、耐熱性にも優れています。地球上では酸素があるために600℃あたりから黒鉛化が始まりますが、酸素のない宇宙空間では1400度ほどまで耐熱性を有しています。
優れたデバイス特性
ダイヤモンドは、その優れたデバイス性能により、次世代のパワー半導体材料として注目されている素材です。パワー半導体はスイッチング動作により電力変換を行うデバイスであり、求められる性能としてデバイスにかけられる最大電圧が大きいこと、スイッチング速度が速いこと、耐熱性に優れることが挙げられます。
ダイヤモンドはこれらデバイス性能に直結するバンドギャップ、絶縁破壊電界強度、キャリア移動度、誘電率がパワー半導体として主流であるシリコン、炭化ケイ素、窒化ガリウムよりも優れており、さらなる高出力・高速動作や、高温・高電圧環境下での安定的な動作が可能になると期待されています。
放射線耐性
放射線はある物質を通過する際にエネルギーを与え、物質内の電子を弾き飛ばすことで電離作用を発生させます。ダイヤモンドは炭素原子間の結合が強力で電子を引き付ける力が強いことから放射線に対しても高い耐性を有しており、その性能は半導体デバイス材料として一般的なシリコンの1000倍程度です。
この特徴から、宇宙空間のみならず原子炉格納容器内などの厳しい放射線環境下での利用が期待されています。
その他
上記で紹介したもの以外にも、ダイヤモンドにはユニークな性質が数多くあります。ダイヤモンドは地球上に存在する物質の中で一番硬いとされており、高硬度な工具として広く使用される超硬の約5倍(ビッカース硬度:約10000Hv)の硬度にも達します。
その硬度を活かして、切削工具として広く利用されているのも特徴です。また、その他にもダイヤモンドは広いバンドギャップを持ち、紫外線領域の高いエネルギーの光も吸収せずに透過するため、紫外線から赤外線の広い波長領域で高い透過率を有しています。
高硬度のダイヤモンドは傷が付きにくく化学的にも安定していることから、長期間メンテナンスが不要な光学窓材としても利用されます。
宇宙産業でのダイヤモンドの活用例
ここからはダイヤモンドの宇宙産業での活用例をご紹介します。
光学窓材
金星探査機パイオニア・ヴィーナスでは赤外線観測装置の窓材としてダイヤモンドが利用されました。パイオニア・ヴィーナス計画では金星の雲や大気、太陽風粒子観測を目的に数多くの観測機器が搭載され、1978年から1992年にわたる長期間、金星の大気の観測を続けました。
金星は太陽系の惑星の中で2番目に太陽に近く、その地表面温度は400℃以上に達します。そのため、観測する機器にも特別な熱保護が必要となりますが、ダイヤモンドは高熱耐性と高い透過率を有するために窓材として最適であり、実際の探査機には13.5カラットもある巨大なダイヤモンドが窓材として採用されました。
ダイヤモンド半導体
宇宙機では搭載可能なスペース、利用可能な電力に厳しい制限があることから、小型・高効率な半導体デバイスが必要です。ダイヤモンド半導体は先に述べた通りの優れたデバイス性能を持ち、かつ高い放射線耐性を有していることから、未だ真空管を用いている機器を半導体化できることが期待されており、宇宙産業への活用に大きな潜在能力を秘めています。
各国の宇宙機関ではダイヤモンド半導体の研究が進められており、日本国内では宇宙通信向けのデバイスとして宇宙環境での動作確認を目指す計画が開始されています。
ヒートスプレッダ
宇宙空間は真空で空気による熱伝達や対流がなく、赤外線の放射でのみ熱が伝わります。そのため、観測機器が冷えすぎないように温めること、機器で発生した熱をうまく分散させることが重要です。
ダイヤモンドは高い熱伝導率を有するので、発生した熱を素早く分散させるヒートスプレッダとして活用されています。また、宇宙機への積載可能な重量には大きな制約があるため、炭素原子で構成されていて軽量であることも利点となります。
その他
宇宙空間での直接的な用途ではありませんが、高硬度、耐摩耗性に優れたダイヤモンドは切削工具として、工業分野のみならず宇宙産業でも広く活用されています。その代表例が望遠鏡の加工です。
宇宙空間から地球を観測する人工衛星や深宇宙に広がる天体を観測する天文衛星・地上天文台では、遠くの対象物を高精細・高精度に撮影するために非常に大きな望遠鏡が必要となり、鏡を材料から削り出す工程でダイヤモンド工具が利用されています。例えば、ハワイ島に設置された大型光学赤外線望遠鏡であるすばる望遠鏡でも、その切削工程でダイヤモンド工具が利用されました。
望遠鏡の加工以外にも軽量、高強度、高剛性なことから人工衛星の構造部材として広く利用されているCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics : 炭素繊維強化プラスチック)では通常の切削工具で加工すると早期に消耗してしまうため、ダイヤモンド工具が広く利用されています。
まとめ
本記事では、宇宙産業部品として利用されるダイヤモンドの性質と特徴的な活用例を紹介しました。
ダイヤモンドは高い熱伝導率、高い高温耐性・放射線耐性、優れたデバイス性能などから、厳しい環境下に晒される宇宙空間でもすでにいくつか活用されており、今後も活躍の場が広がることが期待されます。
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