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量子コンピュータの実用化に貢献する高精密加工技術

   最終更新日:    公開日: 2024/12

気象予測のような複雑な現象の解析や、AIを用いたデータ分析などでは、超高速の計算が必要です。しかし、0、1で計算する半導体技術によるコンピュータでは、近いうちに計算速度の限界が来ると言われています。そこで注目が集まっているのが量子コンピュータです。

NTTは新たなネットワークIOWN(Innova­tive Optical and Wireless Network)構想を2019年に提唱しました。IWONでは光電融合技術による演算処理高速化と、あらゆるものを光で高速に結ぶAPN(オールフォトニクスネットワーク)が検討されています。それに加え、データの高速処理のため、全く新しいコンピューティング基盤として量子コンピュータの研究も進められています。

本記事では、量子コンピュータ、IWON、量子コンピュータの実用化に貢献する生産加工技術について解説します。

半導体技術の限界を超える量子コンピュータ

量子コンピュータ

量子コンピュータは、量子力学の原理を用いた次世代のコンピュータです。従来の半導体を用いたコンピュータでは、電気信号がオンの状態を1、オフの状態を0として計算を行います。そのため、一度に1つの情報だけを処理します。この0と1のどちらかがで表されるデータの最小単位をビットと呼びます。

量子コンピュータで使用する情報の最小単位は、「量子ビット」です。量子コンピュータでは、量子の持つ「重ね合わせ」や「量子もつれ」の現象を用いてデータを表します。重ね合わせとは、相反する2つ以上の状態が共存できる現象です。量子のもつれとは、2つ以上の量子ビットが深くつながりを持つことで、一方の状態が他方の状態に影響を及ぼす現象です。

例えば、従来のコンピュータでは、1つのビットで0か1のどちらかの状態しか持てないのに対して、量子コンピュータでは、重ね合わせにより、量子ビットが0と1の両方の状態を同時に持つことができます。更に、量子もつれにより異なる量子ビットがつながり、影響を及ぼすこともあります。これにより、量子ビットは複数の状態を同時に持てるので、従来のコンピュータよりも保持できる情報が増え、並列処理を行うことで特定の問題に対しての処理時間が大幅に削減されるのです。特に、気象予測や物流予測、創薬、材料開発、金融などの分野において大きな進歩をもたらすと期待されています。

IOWN構想のコンピューティング基板となる量子コンピュータ

NTTは、従来のエレクトロニクス技術からフォトニクス技術にシフトすることで、大容量、低遅延、低消費電力を兼ね備えた革新的なネットワークを構築する、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を提唱しました。IOWN構想は、3つの要素から構成されています。1つめが、ネットワークの末端まで全てにフォトニクスベースの技術を導入する「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」。2つめが、全てのICTリソースをつなぎ、柔軟な制御を実現する「コグニティブ・ファウンデーション(CF)」。3つめが、従来のデジタルツインの概念をより発展させ、モノやヒトの相互作用をサイバー空間上で再現する「デジタルツインコンピューティング(DTC)」です。

DTCでは、従来のコンピュータを遥かに上回る計算速度で処理を行えるコンピューティング基板が必要となります。そこで活用が検討されているのが量子コンピュータです。NTTでは、実用可能な量子コンピュータの開発に向けて、ハード、ソフトの両面で研究開発を進めていることを発表しています。

量子コンピュータ実用化に向けた課題

量子コンピュータ

現在、量子コンピュータの実用化に向けての開発が、NTTを始め、多くの国や研究機関で行われています。しかし、課題も多く実用化にはまだ時間がかかると言われています。

現在の量子コンピュータでは、量子ピットがまだ100程度しかありません。量子コンピュータでは計算時にエラーが生じることがあります。従来のコンピュータにおいてもエラーを訂正する技術が使われていますが、同様の訂正技術を実現するためには、100万以上の量子ビットが必要と言われています。年々、量子コンピュータの集積度が上がり、量子ビット数が増えていますが、実現にはまだ時間がかかります。

量子コンピュータを実現する方式としては、超伝導や光、シリコン、イオントラップ、冷却原子によるものなど、さまざまな方式が提案されてきました。現在開発が進んでいる超電導を用いた量子コンピュータでは、量子を安定させるため、絶対零度(-273度)に近い極低温環境が必要です。量子ビットの数を増やすために量子コンピュータのサイズが大きくなれば、大規模な極低温環境をつくらねばならず実現の壁となります。

その中で近年注目を集めているのが、光を用いる量子コンピュータです。量子ビットとして光の最小単位となる光子を用います。光量子コンピュータは、量子ビットが室温でも動作するので大規模化が容易であり、光通信などのフォトニクス技術との相性が良いのが特徴です。しかし、実用化には、光パルスを発生させる光源の開発や、光回路部品の高精度化など、課題も多くあります。

量子コンピュータの処理能力を活かす光による高速ネットワーク

IWON構想では、APNと親和性が高い光量子コンピュータを新たなコンピューティング基板の有力候補の1つとして研究を進め、基幹技術となる光源モジュールの開発などにも既に成功しています。光量子コンピュータが実現されれば、従来よりも高速に処理されたデータを、高速に伝送するためのAPNの構築も非常に重要な位置を占めることになります。

APNの実現には、「光電融合」「シリコンフォトニクス」の技術が必要です。光電融合とは、電気信号を扱うエレクトロニクス回路と、光信号を扱うフォトニクス回路を融合させ、高速処理、低消費電力を実現する技術です。シリコンフォトニクスは、光導波路や光スイッチ、受光器などのフォトニクスデバイスによる光回路と、エレクトロニクスデバイスによる電子回路とを1つのシリコン基板上に集積する技術です。これにより、小型、薄型の形状で、超高速大容量、低消費電力の通信デバイスが実現できます。

このような通信デバイスの活用では、他のデバイスなどから送られた光信号を正確に引き入れる必要があります。光信号をデバイスへ正確に導くためには、高精度加工技術により製造された様々な接続デバイスが必要です。例えば、以下のような接続デバイスを活用することで、正確な位置決めと低損失な接続が可能になります。

狭ピッチファイバアレイ
狭ピッチファイバアレイは、ファイバエッチング技術とV溝基板加工技術により製造された接続デバイスです。狭ピッチのV溝基板やマイクロホールアレイに光ファイバを整列、または挿入して固定し、端面をサブミクロンオーダーの高い平坦度で研磨します。複数の光ファイバから光導波路素子に信号を入力する際や、光導波路素子から複数の光ファイバに信号を分ける際に用いられます。

曲げファイバアレイ
曲げファイバアレイ技術は、光ファイバを放電熱で曲げてアレイに組み込む画期的な手法です。
曲げファイバアレイを回折格子型のシリコンフォトニクスデバイスとの結合に使用することで、光デバイスの小型化を実現します。

ガラスキャピラリ
ガラスキャピラリシリコンフォトニクスデバイスとの接続に欠かせない部品です。他の素材に比べ、加工性、柔軟性に優れており、光コネクターのPC接続特性で良好な結果を出すことが可能です。
また、UV光透過率の高さもガラス材質の特徴です。これを活かし、紫外線硬化型接着剤を用いた光ファイバやレンズ等の高速固定が実現できます。

TEC融着技術
TEC融着とは、融着装置で放電熱によって光ファイバー同士を接続する技術です。
光回路(PLC, シリコンフォトニクス等)の導波路と通常ファイバとにおける、異径MDF接続用光I/Oデバイスの製造で使用されています。
NAの異なるファイバーや、クラッド径、コア径の異なる様々なファイバーの融着が可能です。

コリメータ、フォーカサ
コリメータ、フォーカサとは、先端に設けられた球面、非球面レンズやファイバの先端加工により、光を平行光(コリメート光)、収束光にする光学部品です。特定の方向や範囲に光を導いたり、検出器に特定の方向から入射する光の検出効率を上げたりすることに用いられます。

量子コンピュータを実用化に近づける

量子コンピュータ

量子コンピュータが実用化されれば、次世代ネットワークの実現だけでなく、社会に多くの影響を与えることが予想されます。しかし、実現にはまだ解決しなければならない課題が多くあります。高精度加工技術は、課題を解決する技術の一つです。今後さらに進化することで、量子コンピュータを実用化に近づけます。

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