Lily Style 女性経営者インタビュー [第六回]

代表取締役社長 並木里也子
「ひとり人事屋さん」 シーウィンプロの社長、斉藤由美子さんはご自身をそう呼んでいます。株式会社リクルートマネジメントソリューションズ(RMS)で28歳でマネージャーに昇格、同社で初めて出産・育児休暇後の職場復帰を果たし、さまざまなプロジェクトの実行を任され、社長賞を2度も受賞されたスーパーキャリアウーマン。2009年に株式会社シーウインプロを起業し、人事面から企業の課題解決に取り組んでいます。人事のプロというだけでなくリーダーとしてもすばらしい才能を持つ斉藤さんに、公私にわたる波乱万丈なお話をお聞きしました。
里也子:株式会社リクルートマネジメントソリューションズではさまざまな部署やプロジェクトを任されましたが、由美子さんの強みは何ですか?
斉藤:企業経営者へのコンサルティングに基づいて人材開発や採用を中心に手掛けています。18歳でリクルートマネジメントソリューションズに入社し、就職活動などで一度は受ける適性検査の「SPI」事業の分社化やHRRブランドの立ち上げ、WEBテストセンター事業などのプロジェクトリーダーを務めました。
里也子:人事のスペシャリストというだけでなくマネジメントにも才能を発揮された後、2014年に独立、クライアント企業のニーズをくみ取りながら課題解決や良い組織づくりを行ってこられました。ひとりですべてをこなされておられると聞いてびっくりしました。
斉藤:研修事業は自分でプログラムを作り、自分でトレーナーとしてそれを実施しています。クライアントには法人だけでなく個人もおります。ベンチャー企業などは、人事部の人数が少ない会社が多いので、会社に行ってまず、何に困っているかを探るところから始まります。その要望に応じて必要な人事のサービスを提供するので、人事全般についての知識や経験が必要です。でも、私はすべてを自分でやるのが性に合っているようです。
里也子:こんなお話を聞くと男勝りというイメージを抱きますが、「男らしい乙女」と言われているそうですね。
斉藤:ずっと自分で判断することが必要な仕事をしているので、きっと判断が速いんですね。男より男らしい判断をすると言われます。でも、女性なら女性であることを楽しもうよという気持ちがあります。
里也子:女性であることを楽しむというと?
斉藤:これは私の持論なんですが、相手になるクライアントって99%が男性です。一緒にご飯食べる男性は、かっこいい方がいいでしょう?だったらその逆もしかりだと思うんです。一緒に仕事する人が清潔感があって笑顔がいいひとだったら、空気も波動も 良くなるから仕事の場が絶対よくなります。女性が行くと空気が変わるとか華やぐと言われますけど、花を添えることも女性の一つの役割だと思うんですよね。
里也子:キャリアコンサルタントとして、「個をあるがままに生かす」ことを大切にしているとおっしゃっていますね。
斉藤:日本人は気が付かないうちに誰かのためになろうとして自分を抑えたり頑張ったりしてしまいがちです。私は、そんなに無理せず自分ファーストでいきましょう、自分を大切にしましょうと伝えています。働く喜びを伝え、幸せな人を増やしたいと思っています。
里也子:由美子さんは、働き方改革などという言葉もない時代に、会社で初めて出産、育児休暇を経て職場に復帰されたそうですね。育児と仕事の両立は大変だったと思います。
斉藤:今は小さな子どもがいる人を時短などの制度によってサポートすることが当然のようになっていますが、私は、他のマネージャーと同じように働くことを求められ、勤務時間も、まずは9時~5時でしたが、しだいに7時まで、それから9時まで働けるような態勢を作りました。小さな子どもを抱えたマネージャーは他に誰もいませんでした。
里也子:どうやって育児と仕事を両立させたのですか?
斉藤:旦那のおかあさんの手を借りるとか、近所の人の手を借りるとか、借りられるものは何でも借りようという気持ちでした。でも、子どものサッカー部の役員やPTAの役員もやりましたし、学童の役員もやっていました。私にとってはリーダーをやっているのが楽なんです。めんどくさがる人が多いですが、自分がリーダーだと「平日は夜も無理なんだよね」と言えば、他の人が合わせてくれる。この方がストレスも溜まりません。
里也子:わたしはそうしたものすべてから逃げていたんですが、今のお話を聞いて、やってみようかなと思いました。
斉藤:こういう役職をやっていると子どもに関われるじゃないですか。学校に頻繁に行っていると、先生やお母さんたちに助けてもらえるんですよ。下の子が公園で大怪我をした時、ママ友がみんなで病院に連れていってくれました。協力者が欲しいなら自分もGiveしなければなりません。
里也子:リクルートマネジメントソリューションズを辞めたきっかけは何だったんですか?
斉藤:2009年、45歳の時に独立する決断をしました。同じころに離婚し、一人で子育てをすることになりました。離婚を巡って精神的にも消耗し切っていましたし、リーマンショックと重なり仕事の上でも苦しかったです。その上、私が39歳の時に倒れた父も介護が必要な状態でした。
里也子:勇気ある決断でしたね。
斉藤:独立後の1年間は、毎日のご飯を食べるのに必死で、記憶がほとんど残っていません。
里也子:お子さんたちはいくつでしたか?
斉藤:中学生ぐらいでした。上の子は私立の中高一貫校でしたが、上の子が私立、下の子が都立というわけにはいかないと思い、上の子にお願いして都立に転校してもらいました。最初は何で僕が転校しなければいけないのってすごく反発したんですが、中3の秋休みにテニス部の先生に「オレ転校します」って自分から言い出して、地元の公立中に転校しました。そんな時期でしたから内申書も高い点数はもらえません。3カ月必死で勉強して都立高校を受験した時は、息子に苦労かけちゃったなという気持ちでいっぱいでした。
里也子:どうやって乗り切ったんですか?
斉藤:私はずっと頼まれたら何でもやりますという姿勢でしたが、この時から「自分では何もできないからお願いします」と割り切ることにしました。そうすると皆が助けてくれるんです。周りからは、巻き込み上手って言われています。(笑)
今でもその頃のママ友と付き合っています。すごく仲がよくて、心の友だと思っています。保育園から一緒に育って、みんながみんなの子どもを自分の子どものように思っていているんです。サッカーをやってる子が全国大会に行くことになったときは、みんなで応援に行きました。今もLINEで誰かが結婚したよとか子どもが出来たよっていうやり取りが続いています。ほんとに癒しになっています。
里也子:私は突然、父親から社長業を引き継いだので、ビジネスの経験がありませんでしたから、できないと思った時はそう言っています。家庭でもできないから頼りにしているよというと子供たちは張り切って手伝ってくれます。今の時代、そういうリーダーもいいのかな、なんて思い始めていたのですが、由美子さんの話を聞いて自信が持てました。
斉藤:リーダー像ということで言えば、求められるのは誠実さだと思います。自分に正直に嘘をつかないことを大切にしています。頑張ることは頑張ります。でも、できない時は、そう言って人に頼る。無理をせず、自分に正直になることが必要です。
里也子:周りを頼りにするようになって、わたしは日々頑張る自分が好きだっただけなんだ、自己満足だったんだと気づき、本当に楽になりました。自分に正直になることができてよかったと改めて思います。
斉藤:セミナーなどで、皆さんに誰が一番大切ですか?それは自分ですよ。無理をせず、あるがままの自分らしくいてください。自分の幸せを最優先し、自分が幸せなら周りも幸せになりますと皆さんに話しています。
里也子:すばらしい!わたしは感覚的にお母さんがハッピーだったら子どももハッピーになるとずっと信じています。
健康を保つためにやっていることはありますか?
斉藤:幸福感をもたらすのはセロトニンというホルモンだということが分かってきたので、セロトニンが増えるようにしようと思っています。そのために毎朝、ウォーキングをしています。多い時には5キロぐらい歩いています。1日1万歩か1万5000歩は歩こうと心掛け、駅まで2キロだから歩こうかなというように生活の中にウォーキングを取り入れています。今、いちばん意識しているのが咀嚼(そしゃく)ですね。一口ごとに30回噛むようにしています。あとは朝の光に当たるとか朝に5分ぐらい瞑想するとか。それから、身体に良くないので意識的にあまりニュースを見ないようにしています。いつもハワイにいたいからハワイアンミュージックをかけたり。続けることが大事だと思います。ゴルフは好きだけど、それよりベーシックなことを老人になっても続けることが健康につながると思っています。
斉藤由美子さん、キラキラとしているように見えますが、母として仕事人としていろいろと陰で努力されてきたんだなと感じました。そうした体験に裏打ちされた頑張ることは頑張るが、自分に正直に無理せず、頼れる人には頼ろうという由美子さんの言葉を、今、必死に頑張っている女性たちに届けたいと思います。
